短編
□若葉のころ
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「セブー!居たわ、あそこ、ほら」
湖畔の樹の下は気に入ってる。
さやさやと、風が葉を揺らし
呼応するように水面が光る
そんな昼下がりのこと。
誰かが自分を呼ぶ声がした。
見知った顔に耳触りの良いその声は、いつも僕をわくわくさせる。
「リリー。」
「…はぁ、やっと着いた、…こんにちはセブ!」
太陽の様な笑顔にほっとしているとその背に隠れるように、もう一つの影があることに気づいた。
僕の視線に気づいたのか、リリーは更に笑顔を眩しくする。
「紹介するわね、友達のナナコよ!」
半ば強引に、ずいぃと僕の前に押して寄越したのは、それはそれは美しいものだった。
彼女が、というより彼女を見た瞬間に自分の中に現れた何かが…そう、キラキラとしたもの。
『あ、あの、……こんにちは…』
湖の光る水面や、葉の隙間から洩れて膝の上の本に落ちる光
眩しくて、それでいて控えめな、心地のよい、やわらかく、あたたかい。
そんなものをぼんやりと連想していた。
とにかく、彼女から目が離せない。
足の裏から地面に根でも下ろしたみたいに、一歩も動けない。
「__..ブ?セブったら!もう!聞いてるの?」
「えっ、あぁ、ごめん。」
夢の中から現実に戻ってきたかの様に目を醒ますと、しまった、目の前の女の子は俯いて泣きそうになってるしその後ろでリリーが目をつり上げてる。
「…あの、えっと、ナナコ」
僕がその名前を口にした瞬間に、彼女の肩がぴくんと揺れた。
どうしよう。
なんだか腹のあたりがざわざわとする。
この今にも壊れてしまいそうな彼女を前に、もうこっちが壊れそうだ。
助けを求めてリリーに目を向ける。
「あ、いっけなーい!私マクゴナガル先生に呼ばれてたんだったわー!急いで行かなくっちゃ!じゃあ二人とも仲良くね!ナナコまたあとでね!!」
明らかに棒読みで距離感も無視なほど声を張り上げながら、両手をバタバタさせたり頬を包んだり忙しなさげにまくしたてるや否や、城の方へと走りだして行ってしまった。
「あっ、おい『リリー!ひどいわ!待っ……!?』
人って考えるより先に行動できるもんだと妙に冷静な自分。
リリーが去ってすぐにその後を追おうとしたナナコの手を、気づいたら、掴んでいた。
当然の如く驚いたであろう彼女は勢いよく僕を振り返り、その白い肌を気の毒なくらい真っ赤にしていた。顔も、指先も。
そして僕は初めて、君の瞳の色を知ったんだ。
若葉のころ
(この世の何より美しい宝石を見つけたと思った。)
「リリー!嗚呼、今日もなんて素敵なんだ僕の可愛いお姫s「うるさいわよジェームズ!」
「(リリーが僕を無視しない!)何か良いことでもあったの?」