短編
□あの日の心臓泥棒
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一人すれ違うのもやっと、くらいしかない幅のくせに見上げるほどの高さまで所狭しと薬品や材料の瓶、魔法書などが敷き詰められ、積み上げられている。
at 薬品庫
まさに今、梯子の上の方での作業を強いられている私は若干の高所恐怖症で(飛行訓練の成績の悪さといったらもう最悪!)、あまり下を見ないようにしながらブツブツと不満を漏らしていた。
『ったく、何でよりによってこんな高いとこの作業ばっかなのよ。だいたい魔法なら一発なのにわざわざマグル式でやれ、なんてスネイプのやつ絶対私が高い所苦手なの知ってるんだわ。あの陰険根暗ネチネチ変態!』
「すべて聞こえているのだがねMs, ナナシ?」
きゃあ
下方から確実に苛々した声が埃っぽい空間にこだまする。
『ちょ、ちょちょちょっと先生、い、いつからそこに!』
怖くて下を見れない!色んな意味で!
「魔法薬学を担当する我輩がいつなんどき此処へ出入りしようとも勝手だろう。」
ごもっともです!
「して、ナナシ。確かに君の飛行術の成績について周知であることは認めよう。マダム・フーチが教員室でこぼしておりましたのでな」
ぎくっ!
「第2に。魔法で簡単に片付けられては罰則の意味が無い。本来ならば我輩自身の手で事足りるのだ。それに君の授業態度を見る限り、とても魔法に自信を持てるほどの腕とは思えん。」
うっ!
「最後に。我輩は変態ではない。」
陰険根暗ネチネチは認めるのか!
言葉の槍で突かれまくって満身創痍であるが、私が言い返せないのをわかっていながら嫌味を並べて悦に浸ってるあたりめっちゃ腹立つ!そういうところがネチネチなのよこの変態!
「…ナナシ。」
『なんですか』
「あくまで、"教師"として、進言しよう。誤解を、恐れず」
一節一節区切りながらさいっこうにネチネチをたっぷり込めて言う。ほんと悪趣味だな。
『まだ何か…?』
「パンツが見えているぞ」
『はあっ?!え、わ、ちょ、きゃああああ』
「ナナシ!!!」
ガシャーン
衝撃的な発言に動揺してしまい、不覚にも思いっきり下を向いてしまった。
瞬間、ぐらりと体勢が崩れ私の身体は急降下。
(死ぬっ!!)
先に地面へ叩きつけられた瓶が粉々になる音を聞いたかと思えば、自身の身体は柔らかい場所に着地した。
「しっかりしたまえ!怪我は?!」
それが教授の腕であると、
ワンテンポ遅れて認識。
苦手な高い所から落っこちた時の、あの胃だけを置いてけぼりにしたかのような浮遊感に身体が震える。
それはナイスキャッチした私を横抱きにしている先生にも直で伝わっているわけで、まるで「大丈夫だ」と私を安心させてくれるかのようにぐっと胸元へ寄せられた。
近い。
ただでさえ、こんな、狭いところで、こんな、密着するなんて。
「すまなかった。言葉が過ぎた様だ。」
ぽかんと呆ける。
え?あの?セブルス・ネチネチ・スネイプが?すまないと言った?
「あー、その、…近頃の君は、些かスカートが短過ぎるのが目立つ。男子生徒の目もあるのだ、少し注意したまえ。」
『は、はい…すみません……』
「………。」
『……あの、先生?』
「…っ、!!」
ドシャッ『うげっ』
何故だか話が終息しても先生は見つめてくるばかりで、更には抱きかかえられたままだったので疑念を示すと、いきなり手を離されその場に尻もちをつく。さっきまでの紳士はどこ行った!
「わ、わかれば良い。罰則は以上だ、寮に戻りたまえ」
ふい、と顔を背けて言いながらガラスの破片をエバネスコしている先生
カーテンみたいな黒髪の隙間から見える顎や鼻が、明らかに赤くなっていて、え、どうしよう。
あの日の心臓泥棒
(まだどきどきしてるのは、)
(落っこちたせいよ)
(色んな意味でね)
titleは 3秒死 様より。