ロゼ ノワール
□The Philosopher's Stone.
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- Nicolas Flamel -
時はその日の朝に遡る___。
差出人不明のクリスマスプレゼントは透明マントだけじゃなかった。
「でも羽ペンなんてありきたりなプレゼントなんだからさ、きっと別の誰か宛のが紛れたんじゃないか?」
「だけどロン…かなり立派なやつだよ、羽は綺麗だし、ほらここの装飾とか」
「まあ、母さんのセーターよりはいい代物だろうよ。気に入ったんなら貰っちゃえばいいさ!」
ダイアゴン横丁でも見たことがない…ってくらいに、その辺の羽ペンとはひと味もふた味も違うとわかった。真っ黒な羽は角度によって光を反射して緑や紫に輝いている。
ダンブルドア先生に「みぞの鏡を見に行ってはいけない」と言われてからは退屈な日々が続いていたので新学期が待ち遠しかった。もうお菓子も食べ飽きたし…
ベッドの上に寝転がってひらひらと羽ペンを振ったりして遊ばせていたが、ばっと起き上がって部屋を出る支度を始めた。
「ちょっと散歩してくる」
……マントには不可解ではあるがメッセージカードが付いていたのでまだいいとして、あの羽ペンは一体誰からの贈り物だったんだろう。それとも魔法界では"知らない人"からプレゼントが届くのは普通のことなのだろうか。
そんなことを考えながら廊下を歩いていた。中庭に出る角を曲がったその時
ドンっ
「きゃっ!」
「イタっ!」
……肝が冷えるとはこのことだ。
ぶつかって尻餅をつかせてしまったのは、あの、エレナ・ローレンス…!スリザリン監督生の…
「気をつけなさい!あなた、何年せ…い…」
転んだのは僕も同じだ。その拍子で前髪の隙間から傷が見えたのだろう。
「……あ、あの、すみません。お怪我は」
「大丈夫よ。それよりスネイプ先生見なかった?」
「いえ、僕が知るわけないです。」
「そう?……彼はいつもあなたを目に入れる様にしてるのに」
「えっ……」
嫌な汗が背を伝う。
クィディッチでの一件はやっぱり本当だったんだ。
「それじゃあね」
「あっ、あの!」
「……?」
:::
ハリー・ポッター…一体どういうつもりかしら。
いつもスネイプ先生に弄られてるからって何か仕返しでも企んでるんじゃないでしょうね。
(スネイプ先生は私がお守りしなくちゃ)
クリスマスの夜も二人っきりで過ごしたかったのに、先生ったらお部屋に篭られたきり出ていらっしゃらないんだもの。せっかくハルフェティ先生も留守にしてらして、またとないチャンスだったというのに。
……ハルフェティ先生。
彼女とスネイプ先生は同窓と言うし、いくら私が彼女のスペックを真似たところで絶対的な差があるのは仕方のないことだわ。現にスネイプ先生は彼女の正体が私の証言によって世間にバラされないようにと、こうして守っているわけだし。
(……悔しい…)
彼女を、越えたい。
スネイプ先生を、もっと私に夢中にさせたいわ…
嫉妬は募るばかりで焦りが増す。
何か、……何か策を考えなきゃ…
「あ、スネイプ先生!」
「……Ms.ロー……オホン、…エレナ。」
日も沈んだ頃、正面玄関の前で偶然鉢合わせる。周りの目を気にする様にしてファーストネームを小声で呼ぶ彼に、思わず口角が上がった。
走り寄ってぴったり身体をくっつけてみるけど…だいぶ慣れてきたのか、もう抵抗もされないみたい。そうやってじわじわと"獲物"を侵食していく感じ…たまらないわ。
「お出掛けですの?どちらへ」
「………マルフォイ邸だ。」
「マルフォイ様?こんな時間にまたどうして…」
「失礼する」
ぐいっと私の身体を引き剥がし、いそいそと行ってしまわれた。
彼の心を手に入れるには、まだまだ時間がかかりそうね。
夜中。
「……ちょっと、ポッター!本当にこんな布きれで透明になってるんでしょうね?」
「しっ!さっき僕が透明になってるの見たでしょう?声までは消せないんだから静かにしてください。」
監督生の地位を得る為に品行方正を貫いてきたこの私が校則を破るなんて前代未聞。卒業を目前にしていつ先生方やフィルチに見つかるとも知れないこの状況は、正直、気が気ではなかった。
「上手くいけばスネイプ先生の私室に潜り込めるかも」ですって?
今朝ポッターに持ち掛けられたこの話。
ハイリスクでも、乗らない手はない。ポッターが一体何を企んでるのかは知らないけど……私のシナリオはこう。
"スネイプ先生を恨むばかり良からぬ悪さを働こうとしたネズミを、監督生の名に懸けてこの私が現行犯逮捕!"
日頃からポッターを嫌い、何かとホグワーツから追い出す口実を探している程のスネイプ先生だもの。さぞお喜びになるわ…
自分がエサにされているとも知らずポッターは私が協力していると思ってる。せいぜい利用してやるんだから…
冷たい空気の地下
スネイプ先生のお部屋がもう目の前というところで突然静かに戸が開いた。しかしそれはスネイプ先生の部屋ではなく、その隣の、
(……ハルフェティ先生…!)
そんな…出掛けているはずでは…
もう帰ってきたのかしら
事前の調べでは明日の昼だったはず。
まさかスネイプ先生がマルフォイ邸へ出掛けたのって…
トントン
「……どうした。ハーブティーか?」
『……あの、…えっと……』
「…………」
二人の会話に集中していると、不意にスネイプ先生がこちらへ目を向けたのでポッターと私は揃って息を飲んだ。
うそ、……見えてるの…?そんなまさか
もし彼に見えてしまっていたとしたら?忌々しいポッターと二人、布きれをかぶってコソコソしている様はさぞかし滑稽だろう。いやその前に、堂々と校則を破っている上に私の計画まで丸潰れになってしまう。
ここは一旦中止にしたほうが良さそうだと一歩後ろへ下がろうとした時
思わずバランスを崩してしまい、よろけた拍子、壁に手を突いた。
「『!』」
トン、と…僅かな音ではあったが"何も無い空間"では明らかに不自然。ハルフェティ先生も素早くこちらへ振り向き辺りを見回している。
次の瞬間
スネイプ先生が彼女の手を取りそのまま勢いよく自分の部屋に引き入れた。
バタン!
「「・・・・」」
かくして、私たちの存在は気づかれることなく
完全に戸は閉められたのだった。
※次のページは裏表現を多く含みます。
読まなくても本編の流れに支障はありませんので苦手な方は51ページめへジャンプしてください。