ロゼ ノワール

□The Philosopher's Stone.
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- Hallowe'en -









その日の授業を終えた私はまた図書館を訪れていた。
三頭犬のことを調べ始めてからもう3日も経っているというのにこれといった手掛かりがつかめず、いい加減焦りを覚える。


ただでさえ少ない文献を漁っていても記述されているのはどれも"M.O.M.分類:XXXXX"という情報ばかり。これはつまりドラゴンにも匹敵するほどの危険度を表しており、魔法省によれば「訓練することも、飼いならすこともできない」、と_____。
しかし確かに、あの部屋に居る。ということは何者かが連れてきたわけであって、そして"飼いならしている"わけで…

ダンブルドアはまず間違い無いでしょう。
けれど世界中を飛び回りここを離れることもしばしばある彼一人では面倒は見きれないはず。他にも必ず三頭犬を飼いならしている人間がいるはずだ。


(ケトルバーン先生なら何か知っているかしら…)


藁をも掴まなければ突破口は見つからない。意を決して読んでいた本をパタンと閉じた時だった。



「あっ、あの、ハルフェティ先生っ」


振り向いたそこに、教科書を何冊か抱えたグレンジャーが立っている。

『……Ms.グレンジャー。どうしました?』
「その、わたし、…先生に相談したいことがあって」







場所を移し、中庭のベンチに座る。
授業を終えた生徒たちが走り回っていたり談笑していたりと思い思いの自由時間を過ごしていた。

「すみません、お時間をとらせてしまって…」
『授業の質問かしら?』
「えっと、授業のことではなくて…でもどうしてもわからないことがあるんです。……先生は学生時代に監督生や首席もこなされて、とっても優秀な生徒だったと聞きました。」

私は口角を上げて話の続きを促した。

「……その、友人の素行が目に余る時は、どうするべきかと思って」
『素行?』

くっと眉間に力が入る。
グレンジャーは時折ハリーとも行動を共にしているため、彼女の言う"友人"とやらに興味を持った。
ハリーが私の預かり知らぬところで危険な行動をしているのなら…放っておくわけにはいかない。

「た、例えば、の話ですが、…夜に寮を抜け出しているのを見つけてしまったりとか」


昨夜の出来事が瞬く間に脳裏に蘇る。

犯人は、…そう、あの子だったわけね。決めつけるには早いとわかっていても、火の無いところに煙は立たぬと言うじゃない。
まったく…まだ一年生だというのにもう自ら進んで校則を破るなんて、一体誰に似たのだか。



…ん?…待って……
記憶を手繰り寄せ、ピーブスが叫んでいた言葉を思い出した。



"妖精の呪文教室の廊下にいるぞ!"



四階の、廊下。
突き当たりの扉の向こうは………!

鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けたが、グレンジャーに悟られないよう至って平静を装った。



『_____そう、例えば、夜に寮を抜け出したり、"立入禁止区域"に足を踏み入れたりしていたら、ってとこかしら』


案の定、グレンジャーはサッと顔を青くする。


『例えば、の話よ。……そうね、もし、私が貴女だったら…』


やはりと飽きれながらも不意に私は自身の学生時代を思い出していた。私にも大事な友人…いやそれ以上の存在が居たこと。


彼と共に過ごした、危険と冒険に満ちた学生時代を。



『………何があっても、どんな手を使っても、その友人を護り抜くわ。…例え、自分を犠牲にしてもね。』




私の口からそんな言葉が出たのが意外だったのか、グレンジャーはぽかんと呆けている。そこで私は、彼女の両手をきゅっと握って目線を合わせた。

『…だけど、グレンジャー。約束してちょうだい。もしも自分の手に負えないと思った時は…必ず私に相談して。』


少し頬を赤らめた彼女は何も言わずこくん、と頷く。


「……最後にもう一つ良いですか?……先生にも、そんな友人が……?」

その質問に応えようと薄く微笑みながら口を開いた瞬間、かぶせるようにして頭の上から低い声が降ってきた。


「おやおやこんなところにおりましたかハルフェティ先生。」

見上げれば、片眉を上げて私たちを見下ろす黒い影。

「クィレル先生が探しておられましたぞ。……お喋りに夢中なグリフィンドール生は当然、我輩の宿題も既に片付けているのでしょうな」

相変わらず彼はグリフィンドールに対して容赦無く侮蔑の視線を送っている。私は目の前で萎縮しながら彼を見上げるグレンジャーに微笑み、『また。』と言って立ち上がった。


「もしかして、先生の友人って…!」

背中越しにグレンジャーが声を投げかけてくる。


私は振り向き、セブルスに見えないようにしてそっと人差し指を口元にあてるのだった。







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