ロゼ ノワール

□The Philosopher's Stone.
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- The Midnight Duel -











三頭犬についての情報を集めるのは困難だった。
足しげく図書館へ通ってみても、かの生き物についての記述はそう多くはない。


「……魔法生物は、君の得意分野では?」

DADA教室にて、借りてきた書物に目を通す私の横でクィレルは次の授業の準備をしている。

『外来種はあまり…それにしても文献が少な過ぎるわ。』

それも、作戦のうちなのだろう。
そもそも他の教員たちは三頭犬の扱いについて伝授されているのだろうか。あの番犬が何を護っているのかについて、知らされているのだろうか…。

ダンブルドアが根回しでもしているのか、誰もあの部屋についての話を口にしない。
故に探りも入れづらいというのが実のところだ。一度食事の席でマクゴナガル先生やフリットウィック先生にそれとなく質問してみたが、深追いするなとでもいうように上手くはぐらかされてしまった。それ以上ヘタに動いては逆に怪しまれるだろう。


……セブルスに聞くべきか…


少なくとも三頭犬の存在くらいは知ってるはず。なんの疑念も抱くことなく私の怪我を手当てしてくれたし、校長に報告したかどうかまでは定かではないが、騒ぎ立てもせず内々に処理しているあたり何かを隠し通そうという魂胆がうかがえる。

……でも、彼は今やダンブルドア側の人間。
私が陣営の人間であることも彼だけは知っているわけだし…そう簡単に答えを差し出すようなことはしないだろう。元も子もない。



やはり"立入禁止区域の攻略法"ではなく、"三頭犬の手なずけ方"として調査を進めるべきだわ。これでは門前払いを喰らったようなものだもの…石までの道のりはまだ遠い。



廊下の方が騒がしくなってきた。
そろそろ授業開始の時間かと、本を閉じる。





五年生のスリザリン・グリフィンドール合同クラスだ。
議題は「ドラゴンと対峙した時の攻略法について、種類別に学ぶ」…

……ドラゴンは通常、人里離れたところに棲息している為なかなか遭遇するものではないし、この議題が将来役に立つかどうかというのは正直微妙なところである。
しかも本物を連れてくるわけにもいかないので、教室に展示している骨格標本を使って説明したり、同じ基礎DNAをもつガラパゴスイグアナを代用したり、と……なんとも、…"非実用的"で…退屈な、内容だ。

主に教壇に立って講義をするのはクィレルの仕事であり、黒板に文字を走らせたり器具の準備や説明といった雑務が私の役割。今はクィレルが例のたどたどしい言い回しで「ドラゴンが吐き出す炎の飛距離」について種類別に比較説明をしている。

その間手が空いた私は何となく窓の外に目を向けた。
校庭ではフーチ先生の飛行訓練が行われている。
副寮監として自寮の時間割は全学年分すべて頭に入っているので、あそこにいる蟻くらいの大きさの生徒たちがスリザリン・グリフィンドールの一年生だということがわかった。

即ち、ハリーもあそこにいるってこと。
あの子が幼少の頃、夢中になって箒で飛び回っていたことを思い出した。私が止めなければ大事にしていた子供用の箒と一緒にベッドに入りそうになっていたくらい、彼は飛ぶのが好きだった。

…………もう、遠い昔の話。

それに箒で飛ぶことに関して私の"教え子"は、ハリー1人ではない。"彼"もまた飛行訓練では優秀な成績を収めてくれることでしょう。

さて、自分のクラスに集中しなくてはと外から中へ視線を戻す。



しばらく経ってから生徒たちが大人しくノートをとっている静寂の中、机の間を見て回りながら歩いているとポト、と足元に小さく折り畳まれた紙が落ちてきた。拾って開いてみる。


"ハルフェティ先生を我がチームに迎えたら、太刀打ちできるか?ウッド!"


自分の名前が書かれていることに驚きながら、本来このメモが渡るはずだったのであろうグリフィンドールの机に顔を向けるとオリバー・ウッドと目が合ってしまった。
ウッドは驚いて即座に目をノートへ戻しわざとらしくペンを走らせている…が、耳が少し赤い。スリザリン側からクスクスと笑い声が漏れる。
この雑な文字といい。察するに、クィディッチで彼をライバル視しているマーカス・フリントの仕業だろう。
やれやれと飽きれながらメモを粉末にしてパッパッと手をはたき何事もなかった様にまた見回りを続けた、その時。


___コンコンコン


扉を叩く音が響く。こんな授業中に……?

入り口に立っていたのはマクゴナガル先生と、そしてなんとハリーだった。


「失礼しますクィレル先生、少しウッドを拝借しても?」



一体何があったのかはわからないけれど、怯えた様子のハリーと目が合う。

…しかしマグゴナガル先生はグリフィンドールの寮監であり、ウッドもまたグリフィンドール生。私が介入する隙はどうやら無さそうだ。

渋々彼らを見送りながら、再び意識を授業へ戻した。






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