ロゼ ノワール

□The Philosopher's Stone.
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- The Potions Master -











一限目、上級生のクラスが終わり生徒たちが順に教室を出ていく。

助教授とはいえ無事に教師デビューを果たせたことに胸を撫で下ろしながら、授業で使った映写機の後片付けをしていた。

すると居残った何人かの男子生徒が隅でひそひそと耳打ちし合いながら何やらこちらを伺っているのに気づいた。


『あなたたち何してるの?次の授業に遅れるわよ』

「あっ、その、ハルフェティ先生…」


集団の中の一人が他の生徒に背中を押されながら飛び出る。飛び出たはいいものの、もごもごと口ごもっているので私はどうしたの、と首をかしげた。


「しっ、質問があって」

「良いでしょう!
お答え、しますよ、よ、よ、よろこんで…」


やっとのことで彼から言葉が絞り出されたと思えば横からずいっとクィレルが割入ってきたので、生徒たちはヒッと声をあげ「失礼します!!」とバタバタ去って行ってしまった。

その背中を見送る私達二人だけが静まり返った教室に残される。



『……その役作り、少し不気味すぎるんじゃないかしら。嫌われてるみたいよ?』

「かえってその方が好都合です。余計な詮索を免れられますから…貴女と違ってね。」

『どういう意味?』

「おや、気づきませんか。」



あれから主は眠りについたままで、クィレルもようやっと普段の調子を取り戻していた。




「さすがとも言うべきか…教員一日目にして、既に彼を始め多くの生徒たちから注目されているみたいですよ。」

『そんなことは、』

と言いかけたところで、朝から先程と似た様な、"思い当たる節"がありすぎることに気づく。


「我々にとってファンが多いというのはあまり好ましい状況とは言えませんね…といっても、貴女自身がどうこうできる問題じゃないでしょうが。」

『ファン…?』


注目を浴びたり、不必要にもて囃されたりするのは好きではない。学生時代の嫌な思い出まで蘇ってきた。


「…いや、ここは敢えて味方につけましょうか。私はさておき、貴女はその才色兼備でもって人気を集めれば任務のカモフラージュにもなるかもしれません」


なるほど、一理ある。が…

『…自分を才色兼備だなんて思ったことは無いし、そもそも人間という生き物は、あまり好きではないわ。』

「ふっ、そうですか…。まあ無理にというわけではありません。貴女が避けいても状況は変わらないでしょうし。何なら利用するまで、という話なだけですから」


クィレルは私から見てもかなりの策士だと思う。合理的で冷静な思考には一切の無駄がない。
グリンゴッツの任務は失敗こそすれ、暫しの相方としては充分期待できるくらい。主がその御魂の宿主に選んだのも頷ける…。


「私が言いたいのは、周囲からの執拗な詮索には気をつけることと、ご自分で思っているよりずっと注目されているという意識だけ忘れないでいただきたいということです。」

『……わかったわ。』

「それから…先程は貴女の人気が我々の暗躍にとってカモフラージュになるかもしれないと言いましたが……当然、一部には通用しないでしょうね。」

『…ええ。』

「厳重注意です。……ダンブルドア、そしてセブルス・スネイプにはね」


私は静かに頷いた。






「……さて、そろそろ二限が始まる。少し早いですが向かいましょうか。」


次の二限目、私達のDADAは偶然空き時間だった。
授業の最中はちょうど校内も手薄になる為、その隙に或る場所への侵入を試みる。



四階の、右側の廊下_____。

今学期から"立ち入り禁止"とされている区域だ。



昨日の始業式で最後にダンブルドアから全校生徒へ向けて注意があったらしい。恐らく教員たちは事前に知らされていたに違いないが、新任で到着したばかりの私とクィレルにその情報は無かった。

更に私は歓迎会の途中で席を外していた為聞き逃してしまったが、今朝方一番にクィレルから教えられたのだった。


立ち入り禁止区域…。

賢者の石は、必ずそこにある。


わかりやす過ぎて拍子抜けしてしまうくらいだけど、ダンブルドアのことだからきっと一筋縄ではいかないはず。

まずはどの様な仕掛けがあるのか。
視察とその結果を踏まえた入念な計画が必要だと、私達の意見は一致した。






もう間もなく授業が始まるので、既に廊下は静まり返っている。教室の前を通り過ぎる度に扉の向こうから生徒たちの声が聞こえてくる中、クィレルと二人並んでローブを翻しながら颯爽と歩いた。


いくつかの階段を昇り降り、ゴーストたちに挨拶をしながらいくつかの角を曲がる。

いよいよ四階へ辿り着いて突き当たりを右に曲がろうという時だった。





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