ロゼ ノワール

□The Philosopher's Stone.
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- Diagon Alley -











元々ここへ来た時からゴブリンたちの間に私語など一切無い上に必要な会話もヒソヒソと最小限のボリュームでされていたから不気味なくらいに静かな空間だなとは思っていたけど…

私の一言でパラパラと紙をめくる音やスタンプを押す音、小さな会話の声すらも、全てがピタリと止んでしまった。



「……失礼ですがどちら様で?」

目の前のゴブリンが小さな眼鏡の鼻当て部分を押し上げながら、私を睨みつける。この場にいる全員の視線が、全方向から私に集中しているのがわかった。

クィレルはどこ吹く風とやっぱり余裕綽々の態度で、後ろから近寄ってくる警備員を振り返り見たりしている。



『ロザリア・ハルフェティ。…父、レオナルド・ハルフェティより家督を継いでいます。ハルフェティ家の、正式な現当主ですが。』




静まり返った空気から一転、ざわざわと軽い騒ぎが一斉に起こり始めた。

「それはそれは…大変失礼しました。では、身分証を見せていただけますかな?」


……身分証?

金庫を開けるのに身分証が要るなんて話は聞いていない。そんなもの、屋敷と一緒に燃えてしまったに決まってる…!唯一、父から譲り受けたものとして宵闇屋の権利保証書なら残っているが…あれは確か、セブルスが保管していて今はスピナーズエンドだ。


『自分の金庫を開けるのに身分を証明する必要が?』

「規則でございます。……さもなくば、…鍵はお持ちなのでしょうな?」


……鍵?

それはここの者たちが管理しているものではないの?
だめだ、事前の調べが足りなさすぎた。これより先に進めなくては、クィレルの任務も遂行できない。ここは一旦出直すべき…


「……ハルフェティ嬢?鍵を、お持ちでは、ないので?」

ずいいっとゴブリンが悪人面を寄せてくる。
こちらもなんとか焦りを顔に出さない様努めてはいるが…身分証もなければ鍵についてもなかなか返答しない私は、やはりどう考えても不審人物である。

周囲がヒソヒソと疑い始め、ざわめきが次第に大きくなっていく中で焦りは否応なしに募っていった。


「…知っている、と。」
『へ!?』

突然クィレルが後ろから耳打ちしてきたので、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

「鍵は"知っている"と答えてください。」
『……!』


「オホン、鍵をお持ちでないのなら『知っていますわ。』

再び、ざわめきが収まりしん、となる。


『…鍵は、知っています。』



ゴブリンは眼鏡を下にずらし、目を細めて私を見据えた。






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