ロゼ ノワール
□The Philosopher's Stone.
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- The Vanishing Glass -
マグルは生き物を飼い慣らし鑑賞する習性があるらしい。
今日はハリーを追って動物園とやらに来ていた。
スズメの姿で園内を浮遊しながら檻の中でしなだれる生き物達に目を向け、憐れに思う。
(森や草原を、自由に駆け回りたいでしょうに…)
何とかしてあげたいけれど、騒ぎを起こして魔法省にでも嗅ぎつけられたら面倒なのでじっと耐えた。するとすぐに"ダドリーちゃん"のぐずり声が耳に飛び込んできたので、近くの木の枝にとまる。
「アイスが小さいよお!!僕誕生日なのにいいい」
「よーし!もう一つ買ってやるぞ、さあほら選びなさい」
「う〜、もうこれいらないっ」
食べかけのアイスクリームがハリーの手に渡る。
叔父さんからのアイコンタクトを受けて嬉しそうにそれを食べ始める彼の様子を見てため息が出た。
(…あの子ブタちゃん、大人になってから苦労するわよ。)
これまで何度もダドリーの横暴な素行を目撃しては「痛い目見せてやるわ」と考えたが、この頃は彼自身の将来を案じる程にまでなってしまった。私がせずとも、いずれ社会そのものが彼に罰をくだすであろうと。
考えに耽っているうちに一行は移動し始めていた様で慌てて後を追うと、そこは爬虫類館だった。
止まり木もなしに薄暗い中での飛行は壁にぶつかったり何かとリスキーな為、こっそりスズメから人の姿に戻る。勿論、マグルの服装に身を包んで。
私自身の姿でハリーに接近するのは久しぶりだった。
数年前にこの手で彼を育てていた時のことを思い出し、胸が締め付けられる。…背、大きくなったのね。
今はまだ話しかけることなんてできないけれど、この狭い空間でこれほどまでに近づくことができているだけでも嬉しくなってしまう。
ハリーが夢中になって覗き込んでいる「ボア・コンストリクター」という大蛇の向かい側で「ニューギニアワニ」を見ているふりをしながら、さりげなく後ろを気にしていた…その時。
「いつもこうさ」
「わかるよ」
『!?』
…聞き間違いだろうか、ヘビと会話を…?
この時私は二つの点で驚いていた。
ハリーがヘビと話せること、そして
私自身がそれを、聴き取れてしまうこと。
今まで生きてきた中でそんなことは唯の一度もなかったのに…。
『………。』
パーセルタングを扱えるのは"スリザリンの継承者"のみであり、私が知る中でその称号を得ている人物は唯一人……
そうこうしている内にダドリーの叫び声とバシャーン!という水飛沫の音が聞こえて現実に引き戻る。
これまでにも何度かあったがハリーの魔法がまた暴発したのだろう。そこにあったはずのガラスが消え、ダドリーが展示コーナーの池にダイブしているところだった。
「ありがとよ。アミーゴ」
大蛇がハリーに声を掛けてスルスルと抜け出して行くので、園内はたちまち騒ぎ始める。
魔法省の目が光っている手前、事件は避けたいところだったけど…仕方ない。この喧騒に紛れて私も一時退散するとしよう。
姿くらましをする為に暗がりを求めて出口へと逃げる人々の間を逆行しようとした。
退き際にダドリーが池に浸かったままポカンとしているのが横目に入る。…子供の不祥事は親の責任ですものね。
ダドリーを池に残したまま、消えたガラスをそっと元に戻しておいた。