ロゼ ノワール

□The Dark Ages
73ページ/82ページ



- 激 動 -












"親愛なる、ロザリア・ハルフェティ様______



今からここに記すことは全て真実であり

貴女に、託します。

どうか私の身勝手をお許しください。





_____R.A.B"










切立つ冷たい岸壁に黒い波が打ちつける。

重たい雲が空を覆い尽くし、飛沫か雨か定かでない霧が顔を湿らせた。


だらりと下ろした腕に力は入らず、けれども彼からのこの手紙が強風に飛ばされてしまわないようにと、指先に込めた意思だけは緩めない。

そうして水平線の先をただじっと見つめていた。けれど、いくら見つめようとも彼はもうその姿を見せることはないのだ。

彼が最期の手紙にも書き残しているほど…そして帝王や自身の理想にまで盾突き抗ってでも、守ろうと大切にしていた屋敷しもべ妖精が私の足元に控えている。


手紙には、

彼が闇の魔術について抱いていた理想
主からの仕打ちや裏切りによってそれが打ち砕かれてしまったこと、その失望
また彼に託されたスリザリンのロケットの呪いと破壊について

そして、私への想いと自らの死についてが記されていた。





『…クリーチャー。
彼は、毒水を飲み干してそれから、どうなったの』

「…はい。レギュラス様はクリーチャーめに例のロケットをお預けになり、毒に蝕まれ朦朧としているところを亡者によって暗き水の底へ引き連れられていった次第でございます。ロザリアお嬢様。」


手紙には記されていない彼の最期を、知っておきたかった。しかしクリーチャーが静々と語ったそれは、あまりに残酷で…私はそっと目を閉じる。


苦しかったでしょう。

辛かったでしょう。



『……どうか、安らかに』

私は手紙を大事にポケットへ入れてから両掌を合わせて盆の形をつくり、そこに息を吹きかけた。すると魔法のかかった息からキラキラと光る結晶の様な星屑の様なものが散り、風に乗ってひと舞いしてから彼が眠る崖下の洞窟の中へと吸い込まれていく。

もうこれ以上彼が苦しむことのない様に。
暗い水の底で静寂と平穏が彼に安らぎをもたらし、その魂を、守ってくれますように。

クリーチャーの目から滴が落ちた。



『…彼から話は聞いてるわね。真実は、私たちだけで留めておくこと。それからロケットはあなたに。』

「かしこまりました。」

『"レギュラス・ブラックは闇の力に恐れをなして我々陣営を裏切ろうとしたが故、このロザリア・ハルフェティが直々に始末した"____これで通しましょう。』

「……仰せのままに。お嬢様。」



クリーチャーは深々と頭を下げ、ロケットを持って姿をくらました。


私はもう一度水平線に目を向ける。
そして時間の許す限り、友の死を悼んだ。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ