ロゼ ノワール

□The Dark Ages
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- 潜 伏 -









主人を失った屋敷は、酷く荒れ果てていた。



数年ぶりに顔を合わせた"家族"たちとひとしきり再会の喜びを分かち合ってから改めて広間に移り、埃をかぶった長いテーブルを囲んで会議が始まる。上座の椅子は空席のまま誰が座るでもなかった。
ほんの数年前、主に集められた主要メンバーだけの会議はまだ記憶に新しいが、同時に遠い昔の出来事の様にも感じられる。
それだけ陣営が全盛期を誇っていた頃からの変貌は凄まじかった。人員は半数以上に減り、皆裏切りや騙し合いの中で疑心暗鬼になっている。そんな状況下における"参謀の帰還"ほど、陣営にとって心強い光はなかった。



『…主は、生きておられるわ。』
一同、息を飲んだ。

「…でも、ロジー?何故あの御方は姿をお見せにならないの?一体どこに…」
『そう、主の肉体は確かに滅びてしまわれた。実際あの夜、我々に何が起こったのかは私にもわからない…。けれど私は前に主から、或る話を聞かされていたの。』


ベラトリックスを始め、ロドルファス、ラバスタンのレストレンジ家
ミハエル、マルシベール、エイブリー

これからの陣営再建に向けて重要且つ主軸になってくるであろう彼らに、まずはホークラックスの話をする。
本当はその所持者である者があと三人いる筈だがそちらへの説明は後にして、まずは地盤を固めることにしたのだ。


「なんですって……ロドルファス!あんた、"あれ"をどこに置いた?!」
「グリンゴッツだ。まず安全だろう。」

「ロザリア、他のホークラックスの所在はわかっているのか?」
『…ええ。正確には、それを任された者たちの所在だけど。ルシウス先輩、レギュラス、バーティに会う必要があるわ。そして、ゴーント家にも行かなくては。』

「現存するその…ホークラックスとやらを掻き集めたら…あの御方が、復活できるのか…?」

『正直に言うと、主はそこまでお話にはならなかったからわからない。でも手掛かりは必ずある筈だわ。』


再び沈黙が辺りを包んだ。
主の消失から初めて、霞を掴むではなく具体的な道筋が見えてきたことを、今ここにいる全員が噛み締めている。


「……で、俺たちはこれからどうすればいい?」
ラバスタンが口を開いた。
その質問に、全員の視線がこちらに集まる。


『…まずは一番厄介なバーティを救出することに総力を尽くしたいわ。ミハエルの話だと、レギュラスも向かったそうだし…さすがに彼一人でアズカバンに盾突くのは無理ですもの。』

「わかった。アタシらで行くよ。」
『…、姉さま。』

ベラトリックスが臆せずに言ってのける。
我々死喰人にとってそれがどれほど自殺行為であるのか周知の事実であるにも関わらず、だ。信頼する参謀の策に対して、更には崇拝する主の復活に対し、命懸けの忠誠心を掲げたのだった。


「ゴーントについては或る程度の情報がある。この数年を費やして主のことを調べていたからね。」
「指輪は俺達で迎えに行こう。」
「あぁ。決まりだな」
『ミハエル、マルシベール、エイブリー。』

とうに滅びてしまったかの名家・ゴーント家は多くが謎に包まれており、やはり危険の伴う任務には違いなかった。まるで姫を護衛する騎士さながらの旧友たちの申し出に、ロザリアは力強い視線を向けた。


『…では、私は皆が帰るまでにルシウス先輩との接触と、陣営の拡大・再建に向けて次の算段を。』



会議を終え、各々任務に就くべく姿をくらましていく。

ロザリアは手早く密書をしたためると漆黒の封筒に入れ名前は記さずに、薔薇の刻印で封をした。
そして呼び寄せた真っ黒の大きなふくろうに預けてから、自分も姿を消したのだった。




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