ロゼ ノワール

□The Dark Ages
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- 帰 還 -










本土最北端の地であるサーソーの廃れた小さな港町に、黒いフードを目深にかぶった青年が現れた。

町酒場はまだ開店準備中であるにも関わらずその青年は構わずに扉を開く。
カウンターの向こうでグラスを拭いていたマスターは怪訝な顔で客人を見やるが、村中の住人がほぼ親戚も同然なこの町では何でも融通を利かせ合うのがお決まりだ。今日みたいに雨まじりの北風が吹き荒ぶ様な夜はオープン前に一杯引っ掛けたい客もいるだろう。それに、青年は明らかにこの町では見かけない風貌だった。


「旅人かい?何にする」
「酒は要りません。お伺いしたいことが…」

マスターは青年の予想外に礼儀正しい物言いに拍子抜けした。かぶったままのフードで顔は良く見えないが、そこら辺のならず者とは訳が違うようだ。


「ここ数年の間で、この方を見かけませんでしたか?またそういった噂を耳にしたことは?」

青年は懐から取り出した一枚の写真をスッと見せてきた。

「ほう、こりゃまたえれぇ別嬪さんじゃねぇか。…残念だがな、この町にゃ昔からずっと、女といやぁしみったれた婆さんしかいねぇのよ」

がっはっはと豪快に笑うマスターに気づかれないよう、フードの影から眼光を鋭くするが開心術を使っても嘘はついていないようだった。

「……そうですか、お騒がせしました。」
カウンターに1ポンドを置き、青年は店を出ると薄暗い路地裏へ身を滑らせた。軒下で出来るだけ雨を避けながら地図を広げ、サーソーの位置に×印を付ける。

するとすぐ横に積まれた樽の上で青い目をしたカラスがじっとこちらを見ているのに気づいた。

「……何か、御用ですか?」

瞬きをした次の瞬間そこに立っていたのは情報屋のミハエル・ユタスキーだった。

「久しぶりだな、レギュラス。」

礼節を重んじる青年は溜息を吐きながらも先輩を前にフードを取る。

「先輩が望むような収穫はありませんよ。残念ながら」

数年ぶりに顔を合わせるというのに再会を喜ぶ表現などは一切省き、ストレートに本題を切り出すあたりは彼等らしい挨拶の仕方だった。
レギュラスは地図を折り畳むとフッと息を吹きかけ青い炎でそれを燃やす。
ちらっと見えたそれには赤い×印が所狭しと記されていて、ミハエルは眉毛を下げた。

「……いや、収穫があったのは僕の方でね。君に報せがあって来たんだ。」
「!」

目を見開きミハエルを見ると、複雑そうな表情をしている。

「悪い報せと良い報せ、どっちから聞きたい?」

同じスリザリンの出身でも彼の方がまだユーモアを持ち合わせている様だ。しかしレギュラスにはそういった嗜好は通じない。少なくとも、今この状況では。

「…良いほうを。」

苛立ちを見せながらもいちいち抗議するより先を急ぎたかった彼は素直に答えた。



「君の捜し人が遂に姿を現したよ。僕たちも一緒に、レストレンジさんたちと合流する。明日、リドル邸だ」


レギュラスは言葉を失った。
5年。5年もの月日を費やしたのだ、ただ一人、想い人の行方を追って____。

身体の力が抜けてしまった彼はトンっと石壁に肩をあずけ、目を閉じ深呼吸をして長く細い息を吐いた。



「だけど、君と彼女の再会は少し先になるかもしれない。……悪い報せを伝えても?」


疑問符を浮かべながら何も言わずにまたミハエルに顔を向ける。
それを無言の了承とするかのように、ミハエルは重々しく口を開いた。



「……バーティがアズカバンに入った。」



親友の、死にも勝る過酷な近況が耳に入った瞬間、レギュラスは黒煙を巻き上げてその場から姿を消した。

友の一大事には身を挺して駆けつける性格は、唯一、彼の兄と共通する部分でもある。


ミハエルも後を追う様にして姿をくらました。







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