ロゼ ノワール

□The Dark Ages
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- 愛 別 -









かくして私たちのささやかな生活は始まった。
と、言ってもこれまで通りスイミーと共にハリーを護り育てるという育児奮闘の日々は変わらず続いて、そこへ新たにセブルスが加わったことで更に賑やかさを増したのだった。


「スネイプおかえりー!ねえねえ箒に乗せてよ!」
「五月蝿い。私は忙しいのだ」
『おかえりなさい、セブルス』

玄関先で軽いキスを交わす私たちの足元でハリーが駄々を捏ね始めた。

セブルスもだいぶここでの生活に馴染んできたみたいだけど、日によって陣営に向かったり騎士団に向かったり…日々を共にすることで諸刃の剣の上を歩く彼が普段どれほど神経をすり減らしているのかがありありとわかってしまうから、辛い。時には深夜に帰ってすぐの早朝出発だったり、帰らない日すらもあるくらいだ。
ただハリーは、そういった大人の事情なんて当然知る由もない。セブルスがそんな調子なのでたまに顔を合わせると純粋に甘えたい盛りになるのだった。

『ハリー。セブルスを休ませてあげて。』
「………むぅ。」
『我儘を言わないの。返事は?』

特に最近のハリーは前にも増して言うことを聞かなくなった気がする。正しい育児法なんてわからないし、隠れて生きている身としてはスイミーの他に相談できる人も居なかった。こんな時…母様に会いたいと思ってしまう。


「……ロザリアはいっつもスネイプのことばっかり!僕のことなんか嫌いなんだっ」
『ハリー!待ちなさい!!』

癇癪を起こして吐き棄てるとそのまま湖の方へ走って行ってしまった。歳頃の男の子特有の「何でも一番になりたい願望」とやらなのだろうが、わかっていてもこういった心のすれ違いは悲しかった。
ハリーは目の届くところで立ち止まって湖のほとりに腰を下ろしている。時々不安になるのは、私は彼を…ちゃんと育ててあげられているのだろうかということ。見て呉れだけの母親面なんて、意味が無いのに。

思わず溜息が漏れてしまうのを、すぐ隣で一部始終を見ていたセブルスにも聞かれてしまった。
彼の手が私の頭を撫でて…そっと抱き寄せられる。

「大丈夫だ。君はよくやってくれてる」

優しい声が沁み渡り視界が滲んできた。
こんなにも弱い自分を、私よりずっと苦労している彼に見せたくない。それでも彼は、大丈夫だと言って全てを包んでくれるのだ。


セブルスは身体を離して私の頬に口付けると、踵を返してハリーの元へ歩いて行く。

その後ろに、どこからともなく呼び寄せた箒を従えて。






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