ロゼ ノワール

□The Dark Ages
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- 夢 幻 -









改めて、お互いに向かい合って座る。
簡素な部屋だから二人分の椅子やソファーが無いので、ベッドの上に。

とにかく私はセブルスに合わせる顔が無くてどうしたらいいのか、何を言えばいいのかわからないでいた。

いっそ罵ってくれればいいのに。蔑んで、責めてくれた方がまだ納得がいく。
傷ついているだろうから、いつもみたいに私を抱いたっていい。都合良くベッドの上にいるじゃない。



なのに……

どうしてそんなに、温かい目で私を見るの?



「…最後に会った時、君はこう言っていたな。」
重い沈黙を彼が先に破った。

「"そんな目で見ないで、私はリリーじゃない"……。
謝らせてくれないか。君に、そんな風な誤解を抱かせてしまったことを。」

頭に疑問符を浮かべて彼を見ると、眉間に皺を寄せて懸命に言葉を選んでいる様子だった。

「その…、これまで、私が君にしてきたことだ。随分勝手な真似をしたと思う。君の優しさと寛容さに甘えていたのだ。」

…貴方の為なら何だってできるもの。
だって私はもう、ずっと前から、


「だが、一つだけ言わせて欲しい。信じて欲しいのだ。……私は君に、リリーの姿を重ねて見たことなど、ただの一度もない。何故だかわかるか?」


問われているのに答えもせず、黙ったままただ彼の瞳から目が離せずにいると、少しだけ顔が近づいた。
そしてあたたかくて大きな掌がすっと頬に添えられる。





「…私が愛しているのは、他でもない、君だからだ。ロザリア。」





時が止まった。けれど、視界はどんどん滲んでいく。
俄かには信じ難い、でも、

彼の優しい微笑みにも
真っ直ぐな芯の強い瞳にも

どこにも、嘘は無かった。




『セブ、ルス…わた……私、ずっと、貴方だけを見てた』
「あぁ。…知っている。」
『ずっと、貴方の傍にいたくて』
「…私もだ。」
『セブルスっ、』
「ロザリア」


彼が私を包もうと動き出したのと同時に胸へ飛び込んだ。

「この3年間、君を探し続けたのだ。遂に君を、失ったかもしれないと思った時…絶望と、恐怖と、後悔が押し寄せた。」

空白を埋めるかのように
互いに少しの隙間も許さないとばかりにきつく抱き締め合う。

「もっと早く気づくべきだったのだ。せめて君に、ちゃんと伝えておくべきだったと。」
『セブルス…、』
「好きだ。ずっと君が好きだった。ただ近過ぎて、自分の気持ちが見えていなかったのだ…。愚かだろう、失って初めて気づくなんて」

彼の一言一言が私の内部に浸透する度、まるで消毒液が傷口に沁みていくような、少しの痛みを伴う。もしも私たちが普通の恋人になれたなら…愛を伝え合うのに傷なんか痛まないのだろうが、あらゆる障壁を乗り越えた互いの心は、もう満身創痍なのだ。

けれどやがて、その傷も癒えていくに違いないと思った。


私は少し身体を離して彼の手を取る。
そして彼が不思議そうに見守る中、その手を自分の左胸に宛てがった。

『……まだ失ってないわ、セブルス。私は貴方を独りにしないと、約束したでしょう?』


彼の…美しいオニキスが、揺れた。




「……一緒に、生きていこう。

君がリリーのことで自分を責めるというのなら、私だって同罪なのだ。一人で背負わないでくれ。」


私だけが幸せになるなんて、許されるはずがない。そう思っていたのを見破られてしまったようだ。けれどセブルスは、それでも私と生きることを選んでくれた。




リリーとの約束と、私の償いは


これからもずっと、この右手の中で生き続ける。








※次のページは裏表現を多く含みます。
読まなくても本編の流れに支障はありませんので苦手な方は55ページめへジャンプしてください。




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