ロゼ ノワール
□The Dark Ages
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- 喪 失 -
「ブラックには近づくなと言ったはずだが」
『任務の為よ、仕方ないじゃない。』
「君は…、任務の為なら、その身を穢すことも厭わないのか?」
『だとしたら、何?』
だとしたら、何なのだろう。
彼女の言うとおりだ、私は今まで自分が彼女にしてきたことを棚にでも上げているつもりなのだろうか。
これまでただの一度も、彼女に対する想いというものを…伝えることは愚か、向き合おうとすらしてこなかった。
そんな私に、彼女を独占することなんて許されるはずがない。
甘んじていたのは確かだ。
何も言わなくても、君は常に私の傍を離れず、そして如何なる私をも受け入れた。
今、この時ですら、私を責めない。否定しないじゃないか。
いつしかそれを、当り前のように捉えてしまう自分が居たのだ。
私たちの間に、確かなものなど何一つ無いというのに…
向き合わなければならない。
そうでなければ
きっと彼女はじきに私から離れてしまうだろう。そして二度と
戻らないだろう。
「……ロザリア、…」
彼女の頬に、そっと触れる。
その瞬間、彼女は身体を強張らせ、また怯えたように目を逸らす。
これだけの時を共にしてきたのに、今更になってそんなに震えさせるほど私は君を傷つけてしまっているのか。
どうすれば、
私はどうすればいい
愛していると、言ってしまえたら
君は許してくれるだろうか______?
「さようなら、"スニベルス"」
どうしても
脳裏に焼きついて離れない、彼女の影が
前に進もうとする私の足を止める。
そうして私は、何度も、言葉を飲み込んできた。
…恐れているのだ
失うことを。
「、奴に何をされた」
『……、もういいでしょ』
「何をされたと聞いている」
彼女は戸惑いに表情を歪めながらボソリと呟く。
『………キス、しただけ。』
頭の中で何かが切れる音がして、すぐに彼女の唇を塞いだ。荒々しく、深く。
私以外の男が彼女に触れるのが
美しい君が、穢されてしまうのが
こんなにも許せない。
醜悪な炎に身を焼かれる思いで、必死に彼女を支配しようとした。
突然チリッと刺激が走り、驚いて唇を離す。
下唇が少しだけ切れて血の味がした。
…ロザリアが歯を立てたのか。
初めて、私を拒んだ。
…、…泣いている。
『…っ、もう、やめて。そんな目で、私を見ないで…私はっ……リリーじゃないのよ、』
鈍器で頭を殴られたように、眩暈がした。
衝撃的な言葉を残した彼女は、そのまま私の横を風の様に走り抜けていく。
しばらくそこから、一歩も動くことができなかった。