ロゼ ノワール

□The Dark Ages
33ページ/82ページ





- 謀 略 -









この一年で闇の勢力はかなり増大した。

闇の帝王は自身の魂を5つの宝と1人の肉体に宿すことに成功、死をも超越し、向かうところ敵無し状態で猛威を振るう。

故に騎士団や闇祓いといった反勢力側は劣勢となり、一方で陣営側の傘下に下る者たちは増えた。但し闇入りを認められるのは純血の者に限られている為、そうでない者たちは反勢力として精々足掻くか、或いは傍観者となるか、逃げ惑う様に身を潜めるなど様々であり、力の差はもはや歴然としている。




黒は、すべてを飲み込む。




闇が世界を統べるその時は、もう目前に迫っていた。





:::

また一つ、小さな村が燃えている。

最近陣営と契約を交わしたばかりの連中が、主がバックについていることを振りかざして大きな顔で高笑いしながら、家々に火を放ってまわっていた。

逃げ惑う人々の叫び声が山に谷に反響している。私は小高い崖の上に立ち、重たい黒のロ−ブをはためかせながらぼんやりとそれを眺めていた。銀製のフルマスクに、焔の揺らめきを映して。


「帝王に逆らう者は皆殺しだァ!ハッハァーッ!!」


まるで馬鹿の一つ覚えね。
実に愚かだ。お前たちとて、主の捨て駒に過ぎないというのに。うわ言の様な忠誠だって信用ならない。
…主のご命令だから従っているが、私はこいつらと慣れ合う気など毛頭ないのだ。




ふと、村の隅を見遣ると小さな女の子が母親を探して泣き喚いているのが見えた。傍には父親らしき者の亡きがらが横たわっている。

ほんの数メートル先で女性が下っ端の輩に襲われんとして逃げ惑っていた。
立ち込める煙で視界が悪いのだろう。
女は追い立てられてどんどん少女の方へ近づいていく。




「マぁマぁー!!うわあーん!!」
「ユリア!?何してるの逃げなさい!きゃあ!」
「へっへっへ、捕まえたぞ、おらっ」
「いやあっはなして!!ユリア、にげ、て!!」
「やだあママぁー!!!」



気づいたら崖を飛び降りていて

黒い煙を纏いながら少女の目の前にぶわりと着地した。


「……、…こうもり…」

涙と煤で真っ黒になった少女が目を丸くして私を見つめる。
一瞬だけ、マスクの奥から視線を合わせるがすぐに振り返った。

『……おい、そこのお前』
「は、へぇ!参謀!」

男は母親のブラウスを裂きかけている手を止め、抵抗する女を押さえつけながらこちらに注意を向けた。


『何をしている』
「へへっ、どうせ殺っちまうんだ、その前に慰みもんにするんでさ!」

『馬鹿者。貴様に帝王の名を口にする資格など無い…失せろ、低俗な下衆め』


私は杖を取り出すと男に向けて失神呪文を放つ。吹き飛ばされた男はそのまま焔の中に飲み込まれていった。


解放された母親はすぐに娘の元へ駆け寄り、泣きながら抱き寄せる。

しかしすぐに私を警戒しながら、震え、怯えた目で見上げてきた。無理もないだろう。そんな目で見られても何ら可笑しくないことを、しているのだから。


私はそのまま何も言わずに踵を返した。


「ありがとう、こうもりさん!!」



背中越しに聞えた声にも、振り返らずに。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ