ロゼ ノワール

□The Dark Ages
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- 誓 約 -









"好き"って、結局言えなかったな。



もう二度と会えないかもしれないというのに。






姿を現したのは小さな村の教会の前。
鳴り響く雷と激しい雨の降る、夜明け前だ。
木製の古い扉を開けて中に入るとシンプルな十字架と聖母像が祀られ、蝋燭の灯が隙間風に揺らめいていた。人の気配は、ない。


歩みを進めて、聖母像の前に跪く。
胸の前で両手を組んで目を瞑った。


(____どうか、愛する者を御守りください。)



ギイ、と戸の開く音が響く。



「なんと美しい夜だ。ロジー、待たせたかな」

『いいえ、マイロード。』


立ち上がって振り返り、お辞儀をする。



「君を呼びたてたのは…ある、重要な任務の為なのだ。この前ホークラックスの話をしたことは覚えているね?」

主はこちらへ歩みを進めながら話し始めた。

「賢い君なら既に気づいているだろう。先程の会議で皆に渡した物がまさしく、それなのだ。」

何も言わず、静かに頷く。
応える様にして微笑んだ主は私の目の前までくると、そっと頭に手を置いた。

「そしてこれから……新たな分霊箱を造る。
これまで5つの"物"に、魂を宿すことに成功したわけだが……どうしても、試してみたいのだ。命ある物に同じことができるのかどうか。」


『_____すべて、貴方様の意のままに。マイロード。』



頭の上に置かれた掌が頬へと滑り下りてきて、そのまま顎を掬われる。


赤く燃える瞳が、心の中に押し入ってくるのがわかる。
冷却する様に、鎮める様に、且つ抗わずに、
…ただ静かに。目の前の赤を見つめ返した。




「……恐れを知らぬ、強く美しい瞳だ。まさしく俺様の分霊箱に相応しい。」


恍惚とした笑みを浮かべた主はそう囁くと、聖母像の前へ私をエスコートする。
先程と同じく、祈る様に跪いた。


稲光で照らされた聖母像が私を見降ろしている。


ホークラックスに関する文献はそれだけでも少なく、生物を対象に成功した前例など見たことも聞いたこともなかった。

____これが最期に見る景色なのかもしれない。


恐怖心を心の奥底に封じ込めて閉ざした今、何も感じることはなかった。


主が呪いの言葉を発し始めると徐々に緑色の霞が私を包み込む。

静かに目を閉じようとしたその時、奥の扉が開いて手灯りの蝋燭を持った神父が出てきた。


「誰かね、こんな夜中に………っ!!!」
「贄だ。アバダケダブラ、息絶えよ」


主の杖から走った閃光が神父の身体を穿つと同時に、私の身体をも目に見えない何かが貫いた。


『あ"ぁぁぁぁあぁぁあっ!!!』



熱い。けれど冷たい。


ドクン、ドクンと心臓が脈打つ度に刻み込まれた痛みと呪いが血液に溶け、全身を駆け巡る。






そして、暗闇と静寂が訪れた。










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