ひゃくみラブ
□DIE HARD
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テキサス郊外のハイウェイ沿いにある薄汚いモーテル。
どうしようもないほど何もないド田舎だけど、ビル一つ無い空に散らばる星だけは綺麗だ。
(…宝石みたい。)
ふぅ…、と紫煙をくゆらせる。
霞のように広がるそれをぼんやり眺めながら
ダビドフの空箱を握り潰した。
とにかく今日の女は喘ぎ声がうるさい。
まあ、仕方ないか。噂によるとハンスのセックスは相当激しい…らしい、から。
「おうおう、お盛んだねえ。」
『カール』
「お前も哀しい奴だな。何が嬉しくて見張りなんか引き受けたんだ?」
『……命令だもの』
新しい煙草に火をつける。
「惚れてんだろ?」
カールは私の顔の横に手をつきながらニヤついた顔を寄せてきた。私はまた煙を吐きながらだんまりを決め込むけれど、その間もアンアン叫ぶ声が響くせいで静寂というわけにはいかない。
「……なあ、ナナコ。こんなのはどうだ?俺と一発…」
鼻息荒く腰を擦り付けてくるその下品な行為に苛立ちはピークを迎え、吸っていた煙草を捨て地面に踏みつけしな、行儀の悪い股間をめいいっぱい蹴り上げてやった。
「アアアアアウチッ!!シッット!何しやがるッッ」
涙目で顔を真っ赤にしながらうずくまってるカールの怒号が響き渡る。するとすぐに背後のドアが開いた。
「騒々しいな」
上半身は裸でズボンだけ履いた姿のハンスが顔を覗かせる。彼もまた苛ついた様な、不機嫌極まりない表情をしていた。でもそれは…、カールが邪魔をした所為ではなさそうだ。
『どうだった?』
「…最悪だ。」
ハンスが私にだけ聞こえるボリュームでそう吐き捨てたあとにドアを押さえたまま一歩下がると、中から女が出てきた。"最悪"と評されたとも知らず、得意げな表情で私を一瞥しハンドバッグを大事そうに抱えながらそそくさと去っていく。
滑稽だこと。
派手過ぎる赤いコートに冷めた視線を送った。
「カール、そこで何をしている?…まさか、ルール違反じゃないだろうな」
「い、いや!その、喉が渇いたんで、飲み物をっ」
ようやっと立ち上がったカールの顎下に銃口が突きつけられ、ハンスの低い声が地を這った。
ルールとはこうだ。
"ナナコに手を出さないこと"
決めたのは当然ハンス。
でも、私は別に彼の女というわけじゃない。
……物心ついた頃から彼に拾われて一緒に居る、ただの妹分なだけ。今はチームでハンスの護衛を任されてる。
自分はその辺の適当な女を抱いて発散してるくせに、私には恋愛も遊びも許さない、謎のルール。
そんなもの無くたって、私は…。
「ナナコ、何もされてないか」
頭の上にポンと手を置かれる。
『大丈夫。』
「…そうか。部屋に戻っていいぞ。」
お小遣いのドル札を握らされ、肩を押される。自室と言っても隣の部屋だけど。
『ハンス』
「何だ」
『おやすみ。』
「……鍵を、掛け忘れるなよ」
ハンスはきっと私の気持ちに気づいている。
知っててわざと夜の見張りを命じるんだ。
すぐ近くに私を置いて、わざと他の女とセックスをする。
……ほんと、どうしようもない変態。歪んだ性癖。
Schatzt.
宝の在り処はどこだろう
Schatzt=シャッツ:自分にとって大事な相手を"宝石"と呼称するドイツの風習(らしい!)
ハンス様に甘やかされ隊。