ひゃくみラブ

□LOVE ACTUALLY
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微裏




「…取り込み中失礼。予約をキャンセルしたいんだがこちらの女性に譲ることはできるかな?」



聞き覚えのある声が横から聞こえてきた。
え、今なんて?




部屋を、譲られた

ハリーが、譲ってくれ、た…?

ていうか、なんで、彼が、ここに




カウンター越しにコンシェルジュと彼とでサクサクと話が進んでいるようだけれど、何ひとつ耳に入ってこない。
まるで時が止まったみたいな衝撃。ハッと気づいた時にはもうハリーの背中がタクシーをキャッチしようとしているところだった。


『……ま、待って!ハリー!!』

荷物をフロントに置き去りにしたまま駆け出し、彼の腕を掴んだ。










パタン、とドアが閉まる。

灯りを点けない部屋は勿論薄暗いけど、オーシャンビューを楽しめるように設計された大きなガラス張りの窓から外の光が射し込んでいた。ライトが海面に反射して部屋の中にはキラキラとした仄青い空間が広がっている。


誰もいない、二人きりの青い夜。
焦燥、背徳……心臓の鼓動は静かに加速していく。

部屋に入って立ち尽くしたまま灯りも点けず互いを見つめ合って、まるで「昨夜の続きを」とでもいうように、鼻先を引き合った。

頭の中の警報音は、もはや波音に掻き消されて。




最初は触れるだけ、ついては離しを数回繰り返し次第に深まっていく口づけに、身体中が熱くなる。
腰や背中へ回された腕に力が入り、ぐっと引き寄せられて密着。部屋中に響く荒い息遣いと卑猥な水音が神経を中枢から麻痺させた。
夢中で舌を絡めたままハリーに身を委ねていると、いつの間にかベッド脇まで移動していた様でそのままボフンとシーツの海に押し倒され、むせ返るようなプルメリアの芳香に包まれる。


恋だの愛だの、関係ない。
ただ本能が目の前の相手を"欲しい"と感じているだけ。
互いにそれをわかっているからこそ、淫らな欲望はより深いものになっていくのだった。


『…んっ、…ん……は…』

貪るような激しいキスの中でかちゃかちゃと鼻に当たって気になる彼の眼鏡
性急に、けれど丁寧に外すとそのまま両手首を掴まれ、頭上で一纏めにされてしまった。ハリーは片手でそれを固定し、器用にもう片方の手で私のボタンに手を掛ける。
真面目そうな顔しといて、することは大胆なんだから…そのギャップが余計に私の興奮を煽り思わず内腿を擦り合わせていた、その時。


トントントン


…一瞬にして現実に引き戻され、互いに目を見開く。


「ルームサービスですー!」
扉の向こうからスタッフの呼び掛け。
ハリーはバツが悪そうな顔をしながら私から眼鏡を受け取り、扉へ向かった。

柔らかい間接照明がふわりと点く。
上体を起こすと目の前の窓ガラスに乱れまくった自分の姿が映った。


「……頼んだ覚えは無いが」
「あっ、ハイ。ウェルカムドリンクですので全室に付いているサービスでございます」
「夜中だぞ…?……まあいい、さっさと行ってくれ」

如何にも不機嫌そうに応対するハリーが心配になってちらっと玄関に目をやると、これでもかってくらいカラフルでフルーツまみれの大きなグラス2つを乗せたトレイを持って、戸口に立っている。その姿がなんだか可愛くて、くすりと笑ってしまった。


「…ああちょっと、きみ!」
「はい、何か?」
「マッサージ付きプランじゃないだろうな?」
「残念ながら付いておりません、サー。もしご希望であれば料金は別になりますが只今メニューをお持ちしま「結構だ。いいな?朝までサービスは一切要らんから部屋に来るんじゃない」

ハリーのあまりの剣幕に新米スタッフはビシッと敬礼をして足早に去っていった。






つづく.



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