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□きょりかん
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「それでね、なんか贈り物しようと思うんだけど、何がいいかなぁ?」


午後9時を回った頃。

静かなリビングのソファに肩を並べて暖かいミルクを飲んでいたのは、優しい容姿、穏やかな雰囲気を醸し出す、顔が瓜二つの兄弟。


ヴェネチアーノことイタリアは、隣に座っている兄、ロマーノの肩に頭をコテンと乗せた。


「ねえ兄ちゃん聞いてるー?」
「あ?おい頭乗せんな」
「もうやっぱり聞いてない!」


ロマーノがヴェネチアーノの頭を軽く叩くと、奇妙な声を上げてヴェネチアーノは少しロマーノから離れた。そしてまた説明を始める。


「だからね、アメリカがイギリスに俺んちのブランドの指輪あげたら受け取って貰えたんだって。だからなんか二人にあげたいなぁって思って」
「は?お前があげんの?」
「うん!指輪買ってくれたから、なんかお礼したくてさ。あと、なんだろ、結婚おめでとうって意味を込めて?」


楽しそうに話す弟を見てロマーノはため息をついた。そもそも結婚ではないだろうし、どうして弟がここまで喜んでいるのかが不思議でたまらない。

ロマーノはホットミルクを口に含む。砂糖を入れたので少し甘くなったそれが、今の時間に調度いい安心感をもたらす。


「やっぱりパスタかなぁ。でも結婚祝いにパスタはないよね。あ、腕時計とかでもいいかもなぁ!」


腕時計と言えばあの店かなぁ、そう言いながら腕を組んで贈り物を考え出すヴェネチアーノを横目で見て、次いで時計に目をやる。


まだ9時過ぎ。今日くらいはこの弟の話に付き合ってやってもいいか、ロマーノはそう思い、もう一度ヴェネチアーノに視線を向けた。


「アメリカは指輪あげたんだろ?」
「うん、すっごい可愛いやつだったよ」
「だったら腕時計はやめた方いいだろ。また手につけるもんあげるなんてセンスねえぞ」
「あっ確かに!さすが兄ちゃん」


ハッとした表情をして指を鳴らしたあと、イタリアはまた頭を悩ませ始めた。

「うう……ネックレス?ピアス?あ、ダメかアクセサリーだから被るや」
「もっと実用的なものがいいんじゃね?アメリカに至ってはアクセサリーなんて付け方知らないだろうし」
「そうだね、イギリスもつけなさそうだし……」


あげるからには使って欲しいよね、文字通り頭を捻ってプレゼントを考えるヴェネチアーノ。ロマーノはじっとその姿を見た。



二人でソファに座っている。今となっては当たり前だが、つい最近までは弟と一緒に過ごすなんて考えられなかったし、はっきり言ってすごく嫌悪感を抱いていた。

弟が友好的に寄ってきても避けた。恥ずかしかったのか、自分よりもうまくいっている弟への僻みなのかはわからなかったが、他国に共にいるところを見られるのも嫌だった。


それでも今こうしていられるのは、弟の人懐っこさ、また鈍感さのおかげなのか。

ぼんやりとロマーノがそんなことを考えていると、不意にヴェネチアーノがロマーノの顔を覗き込んだ。

ロマーノが少し驚いた素振りを見せると、ヴェネチアーノはへにゃっと笑う。


「へへー、兄ちゃん今絶対違うこと考えてたー」
「なんだよ悪いかよ」
「ううん、全然。兄ちゃんの考えてることがわかる距離って、すごい近いなって思ってさ」


ヴェネチアーノはそう言ってロマーノに笑いかけた。
昔、長い間、兄弟とはいえばらばらに暮らしていたため、お互いの様子など全くわからなかった。遠すぎて、気にかけることすらしなかった。


「俺は今の方が、ずっといいな」


ヴェネチアーノがまたロマーノの肩に頭を乗せた。ロマーノは今度はそれを嫌がらず、されるがままに肩を貸した。


そうだな、俺もだよ。そんなことは口が裂けても言えないので、ロマーノは代わりのヴェネチアーノの頭を優しく撫でた。


「あれ、兄ちゃんデレ期?」
「うるせえ」


ヴェネチアーノがすりすりと寄ってきたので、ふぅ、と短く息をついたロマーノだったが、ヴェネチアーノの肩に手を回し、またホットミルクを一口含んだ。



「っていうか。そんなに悩む必要ないだろ、イタリアのブランドだったら財布でもハンカチとかでも良いじゃねえか」


ロマーノがそう聞くと、ヴェネチアーノは「うーん」と少し眉を潜めた。何がいけないのか、今度はロマーノが眉を潜めて首を傾げる。


「ローマのブランドって言ったら、やっぱりアクセサリーが有名だしなぁって」
「ローマ?別にそこにこだわらなくても。ヴェネチアでもミラノでも悪くないだろ」


ヴェネチアーノの言っていることがよくわからない、いやいつものことだが、ロマーノはますます首を傾ける。


「……あのね、俺ね」


ヴェネチアーノはロマーノに顔を向けた。近いわ、そう言ってロマーノが離れようとするが、ヴェネチアーノが離れない。

なんだよ、そう言おうとしたが、その前にヴェネチアーノが話し出したのでそのタイミングを逃した。



「兄ちゃんのところで買い物したいんだ、一緒に。もちろん兄ちゃんのところの方がセンス良いっていうのもあるけど、」



ほら、俺、兄ちゃん大好きだから。




ヴェネチアーノはへへっと小さく笑うと、ロマーノは黙って大きくため息をついた。


「えっどうしたの兄ちゃん」


今度はヴェネチアーノが首を傾げるが、ロマーノはそれに答えず、ただそっぽを向いて一気にホットミルクを飲み干した。



数秒の沈黙のあと、ロマーノが口を開いた。





「……明日。9時に出るぞ」
「えっ?」
「買い物だよ。行くんだろ」



ローマに。


ヴェネチアーノは大きく目を見開いたあと、そのままにこっと笑って、大きく頷いた。


「うん!兄ちゃんだぁいすき」




弟のその言葉が、案外心地よいもので。



俺もだよ、なんて死んでも言えないが、ジェラートくらいは奢ってやろうと思えるほどに、心は許してしまっている。
















「イギリス、イタリアからすっごくお洒落な革靴届いたんだけど」
「お前もか?俺もだよ、サイズぴったりだったし」
「結婚祝いだってさ、いやぁ照れるなぁ」
「結婚祝い?お前結婚したの?」
「俺が指輪あげたこと忘れてたりする?」
「あぁ、そういうこと。あの靴めっちゃ高いやつだぜ、お前知らないだろうけど」
「さすがにそれくらいは知ってるよ!あ、あとさ、写真も一緒に届けられたんだよ。君のところにもきた?」
「写真?」
「うん、手紙と一緒にね。自慢の兄ちゃんと買ったんだって。美味しそうなジェラート食べてたよ、ほんとに仲良いんだね、あの二人」







FIN.


 

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