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□とある10代
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「ねぇ〜もう隠しても無駄なんだって、お兄さんに全部話しちゃいな?」
午後12:40。昼食時間。
ランチをしようと思い購買に行こうとしたとある人物、二年生であるアルフレッド・F・ジョーンズの元にやってきたのは、三人の一つ上の先輩だった。
「せやでー、俺たちに言えば百人力!すぐに幸せにしたるで?」
立ち上がったアルフレッドを座らせ、三人でそれを囲む。真正面に座ったのは恋多き男、フランシス・ボヌフォア。
右隣に席をキープしたのは、ラテン男アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド。
そして左側に座るは、銀髪で赤目という特徴の男、ギルベルト・バイルシュミット。
「悪友」と名高い三人が見つけた今日の暇潰し。
「アルフレッドの好きなやつなんて全女子必見だな!」
ケセッと笑ったギルベルトに、アルフレッドは赤い顔を押さえて大きくため息をついた。
アルフレッドの好きな人。
フランシスが女子生徒から問われたという。
成績優秀、容姿端麗、八方美人、勇壮活発。誰もが羨むような男、アルフレッドに好きな人がいるという噂は、つい最近に広がったというが。
「……なんだい、俺の好きな人?どこからそんな……」
赤くなった顔を隠すように、アルフレッドは片手で自分の顔を覆い隠す。
それを見て面白そうに笑ったのは、言わずもがなフランシスだった。
「お前みたいなイケメンに好きな人がいるなんて気になって仕方ないだろ?女の子でアルフレッドのこと嫌いなやつなんていないよ?」
だから言っちゃえって、笑顔でフランシスがそう促すが、アルフレッドの表情は冴えない。しかめた顔から赤みが抜けていないため、好きな人がいるということに間違いはないのだろう。
「協力したるで?まあ言うてお前に告白されて断るやつなんていないやろけど」
「君たちには関係ないだろ、購買行かせて」
「言ったら行かせてやるし、奢るぜ?」
ギルベルトのその一言に、アルフレッドは押し黙った。食欲旺盛なアルフレッドにとって、昼食を奢ってもらえるというのは好機。
だがそこで揺らいだらいけない。
「……自分で買う……いいから解放してよ、パンが無くなっちゃうんだぞ」
そうか残念、そう言うギルベルトに残念がっている素振りはない。アルフレッドは二度目のため息をついた。
「なんでそんな渋るのかな〜お兄さん理解出来ない」
「俺もや、さっきから言っとること聞いとる?女子でお前の告白断るやつおらへんて」
首を傾げる悪友を一目見て、アルフレッドは机に突っ伏した。面倒くさい、小声で呟いたその言葉は三人の耳には届かない。
「んん……あ、そうだ。三人の中の誰か一人に耳打ちするってのはどう?」
「一人に言ってもどうせ言いふらすだろ」
「わかってるじゃねえかアルフレッド、大人しく言った方がまだ良いんじゃねえか?」
「やだ……」
早く行かせてくれ、昼食抜きは現役高校生には耐えられない。
アルフレッドが机に突っ伏したまま、話は三人で進んでいく。
「せやな、誰か一人に言ってもらおか。誰がええかな?」
「やっぱりここは俺だろ?適任でしょ」
「フランシスはなんか嫌や」
「ダメ出しが雑」
「じゃあ消去法で俺様じゃねえか」
「親分抜かさんといて」
女子高生かい君たち。そう言いたいが顔を上げるのも憂鬱で、アルフレッドはただ石像のように動かずに息を潜めた。
「なかなか決まんないね……」
うーん、フランシスが腕を組んで考え出した、その時だった。
「こんなところにいたのか髭」
突如上から降ってきた声に、アルフレッドはゆっくりと顔を上げた。
三人も振り返り、直後フランシスとアントーニョが声を揃えた。
「出た……」
「そんなことで揃うなバカ。髭、これ今日の書類だ」
「えぇ!今日ないんじゃなかったっけ」
「つべこべ言うな、俺だって不本意だ」
金髪翠眼、しゃんと伸びた背筋でそこに立っていたのは、知る人ぞ知るこの学園の生徒会長、アーサー・カークランドだった。
「お?アーサーなんか久しいな」
「さっきの講義同じ教室じゃなかったかギルベルト?」
「眉毛やんー気分悪いわー」
「お前がどっか行けトマト野郎」
アーサーはそう毒づいたあと、ちらとアルフレッドを見た。アルフレッドは小さく手を振る。
「この距離で手を振るか」
「三年生ズに入っていったら迷惑かなって思ってさー」
小さく首を傾げたが、アーサーはお返しのように手を振った。変な光景、そう呟いたのはフランシス。
「あっせや!」
すると、アントーニョが急に声を上げた。残りの四人は同時にアントーニョに視線を送る。
アントーニョは「名案名案!」そう一人で言ったあと、笑顔になって話し出した。
「眉毛にすればええやん!」
「何を」
「せやから、アルフレッドの好きな人!眉毛に耳打ちするんやったらまだ抵抗少ないんちゃうん?口堅そうやしー頭と同じくらい」
「!?」
それを聞いたフランシスとギルベルトは、おおっと感嘆の声を発した。
アルフレッドは体を硬直させ、息をしていないように微動だにしない。
対してアーサーは、ぽかんと口を開けてアントーニョを見る。
「何の話だ…?」
「今さ、アルフレッドの好きな人を聞き出そうと奮闘してたわけ。まあ確かに坊っちゃんにだったら言えるんじゃない?アルフレッド」
フランシスはニヤニヤしながらアルフレッドの肩に手を置いた。そこでアルフレッドの硬直は解け、次いでアルフレッドは首をぶんぶんと横に振った。
「お前らなぁ……。暇だからってそういうプライベートなところ干渉すんなよ、迷惑なやつらだな」
アーサーはため息をつきながらそう言うが、「面白くねえやつー」とギルベルトに囁かれ軽く彼の頭を叩いた。
「なっどうやアルフレッド。ここは眉毛に」
「いっやだよ、なんで!」
「でも坊っちゃんに言わなかったら俺たちに言うことになるぞ?」
「俺を巻き込むなよ」
アーサーの一言は誰にも届かず、三人はアルフレッドに交渉を始める。
「そ、そもそも!絶対誰かに喋らなきゃいけないなんて誰が決めたのさ」
「俺ら」
アルフレッドは頬を膨らませてフランシスを睨んだ。おおこっわ、フランシスはそう言いつつケラケラ笑っている。
「お前次第だ」
「俺に話すか」
「アーサーに話すか」
三人は息を揃えて言った。どうする?
「……本当……面倒くさい……」
アルフレッドが顔を歪ませ立ち上がろうとしたその時だった。
「俺に話せ」
「へ?」
突然現れた声に、足に力を入れるのをやめて、アルフレッドはそのまま上を見上げた。
悪友の三人も、声がした方を向く。
アーサーは四人の視線を受けたあと、腕を組みながらもう一度言った。
「俺に言え。他言しねえし、もうこいつらに付き合うの面倒だろ」
アルフレッドは一瞬呆け、その間に三人は次々と話し出した。
「おー男前だねアーサー、お兄さん感心感心!」
「いや、アルフレッドがもうキレそうだったからであってお前らのためじゃねえよ」
「何言うとるん、アルフレッドがキレるわけないやん」
「どうだか」
アーサーは小さく息をつくと、アルフレッドの席の横につき、そのまましゃがんだ。アルフレッドの肩がびくっと震える。
「適当でいい」
固まっているアルフレッドにアーサーはそう囁いた。
言わなくても良いから言ったふりをしろ。そう短く告げて、アーサーはそっと耳を傾けた。
アルフレッドはじっとアーサーを見つめたあと、横目で三人の様子を伺った。早く早く、言ってはないけど聞こえてくる。
アルフレッドは大きくため息をついた。
本当はもっと先の予定だったけど。
アルフレッドはそっと、小さくアーサーに耳打ちをした。
「君だよ」
アーサーがうずくまるのは、その言葉の5秒後。
(「察した」)
(「自然と俺らが恋のキューピッドになっていることを」)
(「そして今、俺たちは空気と化していることを」)
青春なんて、こんなものだ。
END.