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□二者択一の幻想
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夢を、見たんだ。



広い草原、綺麗な空。なぜかそこに、俺はいた。
幼い頃の俺だった。可愛らしいうさぎを抱えて、俺は一人広い草原でたたずんでいた。

眩しい空を見上げてると、不意に声が聞こえた。

「アメリカ」

俺はその呼び掛けに振り向いた。そしてなぜか、心が跳ね上ったのを覚えている。


俺は笑顔で、その人の名前を呼んだ。


「イギリス、お帰り!」







この夢を見たのがいつだったのか、今ではもう不明だ。なんたって夢の中の自分が小さいってことは、きっと現実の俺も小さかったってことになる。
なんで国名で呼びあってるんだろう。そんな疑問を持つ以前に、俺はその夢に興味があった。
確実にそれが始まりだった。

そのあとも、俺は「アメリカ」と「イギリス」の夢を見続けた。





夢の中の自分の家。そこで俺ともう一人は、一緒に紅茶を飲んでいた。
最初の夢よりは相当俺は大きくなっていたが、イギリスというその人は見た目は全く変わらない。聖母のような微笑みで、黒く焦げたスコーンを食べる俺を見つめている。

美味いかって聞かれて、きっとそれは美味しいとは程遠いものだったんだろうけど、俺は笑顔で美味しいって答えた。そのあとに見た彼の笑顔はとても綺麗で、思わず見惚れた。

可愛いなって、俺は純粋にそう思った。まあ夢の中だったけど。


でもなぜかそれが夢だと思えなくて、目を覚ませばいつものベッドと自分の部屋しかないのに、とても近いことのように感じた。

街を歩いていても、ここは来たことがないのになんか見覚えがあるなとか、この人会ったことあるなとか、不思議な感覚に襲われる。今に始まったことではない。ずっと前から、見たこともない景色に見覚えがあったんだ。

1つ惜しいのは、ずっと夢の中の俺と一緒にいてくれる彼の顔を、微塵も覚えていないこと。

何度も夢を見ているのに、なぜか彼の顔だけは起きたときには忘れている。残るのは、記憶の中の暖かい手だけ。

会いたいのに会えない。とてももどかしいこの感じは、少し苦手だ。




そんな不思議な感覚に襲われ続けて十数年。
16歳になった俺も学校というものに通い、もちろん年頃の男なので好きな人だって出来た。

そこで女の子じゃなくて同性の男を好きになっちゃったって時点で俺自体に何かがあるよね、わかってるよ。でも仕方がない。

入学式の時に、1つ上の先輩に恋をしてしまったのだ。


金髪翠眼、細身で白い肌。眉毛が特徴的で、そこもまた可愛い生徒会の委員。そして男。俺の惚れた相手。

年齢も1つ上で、そもそもまともな話すらしたことがない。入学式のときにだけ、一回お世話になった程度。
その時にハートをショットガンで撃ち抜かれたわけなんだけど、その話はまた今度。その日から、俺は目でその人を追うようになっていた。

俺は体格とかセンスとかの関係でバスケ部に所属し、いろんな女の子からお菓子を貰ったりデートのお誘いを受けたり日常的に話しかけられたりしているけど、俺はその人を忘れたことはない。
なぜだかいつも、彼が脳裏に焼き付いて離れない。


しかし俺が彼に話しかけようとすると、決まって邪魔が入る。それは男でも女でも教師でもあるが、殺意までとはいかなくても嫌悪は覚えた。
せっかくのチャンスをことごとく潰されるのだ、少しは大目に見てもらいたい。




そんなこんなで目まぐるしくも楽しく生きていた、新しい春。彼と出会って、1年経ったある日。


俺はまた、夢を見た。



雨が降っていた。傘などでは凌げない程の大雨。
そこで、俺と彼はお互い銃を向けて相対峙していた。

俺の後ろには数えきれないくらいの兵士。その皆が武器を彼に向けている。

「なぁイギリス。やっぱり俺、自由を選ぶよ。もう子供でもないし君の弟でもない」


俺は、雨に濡れたまま彼の瞳を真っ直ぐと見据えた。

そこで俺は、初めて彼の顔を見た。



「たった今、俺は君から独立する」







俺はベッドから飛び起きた。心臓が大きく高鳴っているのを感じる。
乙女みたいな自分が気持ち悪いとか思っている間もなく、光速で準備を済ませて俺は家を飛び出した。


イギリス。俺のイギリス。
わかってしまった。どうして俺が彼を好きになったのか。ここまで恋い焦がれたのか。


学校に着き、校門をくぐった瞬間、そこに彼はいた。回りを人で囲まれていたが、そんなの今の俺には関係ない。

俺は勢いよく彼に抱きついた。
視線が集まっていたって、そんなの知るか。
顔を赤く染めて口をぱくぱくさせている彼が、今も昔も愛しい人だったのだ。



「イギリス!っ会いたかった!!」




そう叫んだ後に、地獄へ突き落とされたような感覚になったのは、絶対彼の言葉のせい。


「……君、何言ってるんだ?」









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