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□あなたにチョコレートを
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2月某日、ベルギー。
そこのとある湊町で、二つの影が向き合っていた。
「ほんまにこんな買ってくれるん?」
両手に大きな袋を二つ持ち、不安そうに目の前の人物にそう聞いたのはこの国の祖国であるベルギー。袋の中からは、何やら甘い香りが漂ってくる。
「あぁ。お前のところに間違いがないって知ってるからな」
ベルギーの不安さをかき消すように屈託なく笑ったのはイギリスだった。その手には何にも包まれていない札束が見える。
イギリスはその札束をベルギーに差し出した。少しためらったあと、ベルギーはその札束を受け取り、持っていた袋をイギリスに手渡す。
袋の中身を見て、イギリスは笑った。
「こんなにたくさんの種類の店、回ってくれたのか」
「一つの店だけやと飽きてまうかなって思って……」
「ありがとな。わざわざここまでしてくれて」
紳士然としてベルギーに礼を言うイギリスは幾分雰囲気が優しい。
ベルギーは手元の札束をおそるおそる数えて、次いで絶句した。
「こっこんなに貰えませんわ!」
「チップだと思って受け取ってくれよ」
「それでもこの半分もいらんで!?」
慌てるベルギーは札束を半分にしてイギリスに差し出す。しかしイギリスはそれを受け取らず、ただ笑って袋の中から一つおしゃれな箱を取り出した。
「じゃあ、それは俺からの贈り物だ。受け取ってくれよレディ。……Happy Valentine」
その箱にちゅっと軽く口づけをし、イギリスはそのまま踵を返す。後ろで動揺しているベルギーに声をかけられたが、ただ手を振って振り向くことはなかった。
いくら使っている通貨が違うといえど、金の価値くらいはわかる。自分が使った金額の5倍は越えるであろう大金を貰い、ベルギーはただ唖然とした。
「お兄ちゃんと大違いや……」
紳士の背中を見えなくなるまで見つめたあと、ベルギーはそう呟いた。