Main


□あなたにチョコレートを
2ページ/7ページ


同時刻、日本。

今夜は月が美しいと、縁側に座った日本は犬を撫でながらぼんやりとそう思う。この月はまだ西欧の方では見えないはずだ、そう考えて、先日日本の元に訪れたイギリスのことを日本は思い出した。そしてほぅっと息をつく。

「……アメリカさんも、大変ですね」


日本がそう呟いたのは、意味がある。










「2月14日は、日本では女が男にチョコレートをあげるんだろ?」

出張だというイギリスが日本の家に一泊したのはちょうど4日前。今日より少し月が欠けて見える夜、二人で食事をしていたときにイギリスは唐突にそう切り出した。

「あぁ、ばれんたいんでーですね。好きな男の子に女の子がちょこれーとを渡すのが主流でしたが、今では好きではない人でもお世話になっていたらお菓子などを渡すこともありますよ」

塩鮭を箸でほぐしながら、日本はイギリスにそう説明した。実際、最近は義理チョコなるものを渡すほうが多いはずだ。本命は手作り、その他は既製品というのが最近の傾向。

イギリスはそれを聞いて、ほう、と一回うなずく。そして口の中の白米がなくなったあと、また日本に尋ねた。

「それは全員分手作りするのか?」
「人それぞれですが、お世話になっている方々にあげるものは大体既に作られて売られているものですね。たくさん作るのには時間もお金もかかりますし」
「なるほど……確かにな」

茶碗を持ちながら、日本の言葉に何かを考える素振りを見せるイギリス。


渡したい人でもいるのだろうか、日本はその様子を見てそう考えた。

きっと本命はアメリカさんだろう、お世話になっている方々とは誰のことなのだろうか、いろいろ推測して日本は味噌汁を啜った。

「じゃあアメリカにも既製品でいいや」
「!?」

イギリスの一言に日本は思わずむせた。畜生、なめこが喉に引っ掛かった。

「日本!?大丈夫か!!」

急にむせ出した日本に駆け寄り、イギリスは背中をさする。日本はむせながら、心配しているイギリスに親指を立てた。

数分で落ち着いた日本は、大きく深呼吸をしてからイギリスに向き直った。

「ええと……アメリカさんにも、買ったものを差し上げるんですか?」

一応あなた方付き合っているんでしょう?と言ってみたが本音はそんなことではない。

料理が下手なイギリスが心を込めて黒焦げのお菓子を作り、アメリカがそれを苦笑いながらも愛の力で全て平らげての米英だ。そこからあんなことやそんなことを始めるのが米英の王道ではないですかイギリスさん。


「ん?あぁ、そうしようかと思ってる。作るにも時間ねえし、美味いもん大量に買った方楽だしな。それに、」

イギリスは少し頬を赤らめ言った。

「アメリカにも、世話になってるし」





違う!!




そう叫びたい気持ちを必死におさえ、日本はごほんと不自然に咳払いをした。

日本が言う「世話になっている」はそういう意味ではない。
仕事仲間や、あくまで友達関係の仲、いわゆる「恋愛感情がない」人には既製品でも喜ばれる。しかしそれが好きな人にシフトしたらどうだろう。どんなに不味くても美味しく感じるはずだ。そして貰ったら発狂するレベルで嬉しい。


それをわかっていないのだ、この英国は。

「でも、アメリカさんはあなたの手作りのほうが絶対喜びますよ……?」
「それじゃアメリカだけ贔屓してるじゃねえか。同じように世話になってるやつと差をつけたくない」


え、もしかして付き合っていない?それかアメリカさん以外にも恋人が?そう錯覚した日本だが、はぁ、と曖昧に返事をして、海の向こうの大国を気の毒に思うだけにした。



「あいつ、喜ぶかな」



このイギリスの表情を見たら、尚更だ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ