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□愛×愛=永遠
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「……ん」


コーヒーと、甘いお菓子の香り。俺はそれでゆっくりと目を開けた。

天国か。長すぎた国の一生が幕を閉じたのか。

……いやしかし消えるにはまだ早い。要素といったらEUを離脱したくらいだし。


「あぁ、目が覚めたか」

急に声が聞こえてきたので、俺は勢いよく飛び上がりキョロキョロと辺りを見渡した。どうやら自分はソファの上に寝ていたらしい。
ここはリビングで、視線の先にあるテーブルにはコーヒーと何かのお菓子が乗っていて、そしてキッチンの方から出てきていたのは。

「っ!ドイツ!?」

俺はそいつの名前を叫んで、そのまま後悔した。頭が痛い。割れる勢いで痛い。

うずくまっている俺を見て、そこに立っていた金髪の男、ドイツは「叫ぶな」と手に持っていたもう一つのコーヒーカップをテーブルに置いた。そして俺の顔を覗きこむ。

「……寝不足だろう。体調管理はしっかりしておけ」

コーチのような母のような、そんな声音でそう言ったドイツは俺にコーヒーを渡してきた。それを受け取るが、いやちょっと待て。

「なんで俺ここにいるんだ?」

俺は目の前に座った金髪を見て首をかしげた。落ちたあとの記憶がない。正確に言えば、地面に落ちる間際からの記憶がない。
なぜ俺が今ドイツの家の中にいるのか。

「なんで、か。お前が俺の上に降ってきたからとでも答えれば良いか」

ゆったりとした動作で腕を組み、はぁと息をつくクラウツの野郎は年の割には大人びて見える。それをじっと見つめながら、俺はその光景を思い出した。
ようするに。足を滑らせ、階段から落ちたとき、俺の下にいたやつがこいつだったということか。

俺は今出張でドイツにいたことを思い出して合点がいった。ドイツの駅のホームから落ちたのだ。

納得がいってスッキリした。間抜けな顔をしたら、目の前の男がくすりと笑ったように見えた。

「そういえば、アメリカに連絡しておいたぞ」
「アメリカにか?わざわざそんなことまで」
「あぁ、しなくても良かったことだった。お前が駅のホームから落ち、俺の家で寝てると教えたら、なんて言ったと思う?」
「……大体想像はつくが。なんて言われたんだ?」
「イギリスが君の家で?そうかい、せいぜい老体が果てないことを祈るよ!今から映画見に行くんだけどドイツも一緒にどう?」
「俺が代わりに詫びる。すまなかった」

反射で頭を下げてしまった。あの野郎あとで絞める。
恋人依然の問題だ。礼儀がない。少なからず心配して電話をしてくれたドイツに失礼だし、俺にも失礼。はっきり言って俺に失礼。

「いや、大丈夫なんだが……不思議な関係だな、お前たちは」

笑われてしまった。だがしかし俺もそう思うのでなんとも言えない。
ドイツに限らず、俺たちの関係は大体の国にはバレている。一応恋人なのだが不思議な関係と言われたら確かにそうだ。

「いや、この話で気分を害したならすまない」
「こんなことで落ち込まねえよ」

慣れてるから。そう言って俺はコーヒーにミルクを入れた。そしてそれをかき混ぜながらドイツの顔をちらっと見る。

俺とドイツで、会話が成立している。そのことには慣れていないため、少し不自然な気がした。
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