短いの

□さよなら私の初恋
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私の初恋は、4歳の頃でした。

まだ物を覚え始めて間もない頃に、初めて手に持ったゲーム。

『ドラゴンクエスト8』

私の初恋の相手はその主人公でした。

最初は全く特別でなく、平凡に見える兵士だった。

そんな彼が旅に出て世界を救う勇者になった。

平凡から勇者へ。

その背中に私は心惹かれてしまった。

あれから12年。

私は高校生になり、ゲームをやる暇もなくなっていった。

勉強に必死に食らいついて、他のことに手をつける気にもならなかった。

そして私は一つの決意をする。

「このまま勉強に励んでいながら未練のように縛り付けているくらいなら、これは他の求めている人たちのためにある方がずっといい。」

そうして中古屋に売ることにした。

ドラクエ8はそれをすることすら渋ってしまった。

これだけはどうしてもと思ってしまう。それでも今の私にはきっと邪魔になってしまう。

そうして私は決断した。

「あと一回クリアして、それで終わりにしようかな。」

幸いなことに今は長期休暇。

1週間は休んでも問題ないくらいには課題は進めた。

ディスクを入れてプレステをつける。

あぁ、懐かしい。

幼い頃からずーっと見てきたオレンジのバンダナをした彼。

呪われた城と主を救う旅。

自分にかけられた呪いによって記憶を封印された彼は、その呪いに幾度となく助けられる。

ザバンのときも、ドルマゲスのときも。

そして彼は故郷へ帰り、全てを知る。

父と母が残した形見であるアルゴンリングを持って、彼らはラプソーンへ。

ラプソーンを倒し、呪われた城と主を呪いから解放した。

その数ヶ月後に、主であるミーティア姫の結婚式が行われる予定だった。

しかしそれは、主人公の彼が持つアルゴンリングによって覆された。

サザンビークの王、クラビウス王の実の兄であるエルトリオの息子ということがわかった主人公。

結婚の儀はチャゴス王子でなく、彼と共に行われ2人は幸せに暮らした。

それでこの世界はハッピーエンド。





1週間。本当にその期間で私の目指したエンディングに辿り着いた。

その後の幸せになった2人を見ることは叶わなかった。

そのままthe endを見て終わり、そう思った時だった。

画面にはthe endという字は綴られず、代わりに映ったのはthank youという字。

その時の私は何が起こったか理解ができていなかった。

思いついた答えは一つ。

「奇跡」

奇跡が起きて、最初で最後、ゲームが意志を持った瞬間だったのだ。

小さな笑みと共に流れ出す涙。

あぁ、きっと夢なんだ。

瞬きをした途端に画面の字列はthe endに戻っていた。

ゲームを消し、ディスクを取り出す。

ディスクをケースに入れて、持っていくものと同じ袋に入れる。






さよなら私の初恋。

(あるはずもない夢を見、彼女は初恋を捨て前に進み出す。彼女の後ろ姿は、まるで彼のようで。)


→あとがき

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