Short

□Nobody's Baby
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久しぶりに来て見たら、妹が赤ん坊を抱いていた。

ケニー
「何やってんだよ、馬鹿か」

クシェル
「…」

クシェルは黙って、眠っている赤ん坊の顔を覗きこんでいる。

妹の、以前よりこけた頬、痩せた腕が痛々しい。

ケニー
「仕事もろくにできねぇだろうが」

クシェルの仕事は娼婦だ。

妊娠期間もそうだし、小さい子供が居ては働くことなど難しい。

クシェル
「何とかなってるから、大丈夫」

ケニー
「何とかって」

クシェル
「蓄えもまだ少しあるし、預かってくれる人もいるから」

そう言われてしまえば、ケニーは黙るしかない。

ケニー
「…」

ケニーは、もっと気になることを聞くことにした。

ケニー
「それで、親父は。父親は誰なんだよ」

クシェル
「…」

クシェルはさっきからずっと子供の顔を見たままで、ケニーの方を見ない。

ケニー
「…」

クシェル
「…」

ケニー
「クソ面倒だな、こりゃ」

子供の父親が誰か。

分からないのか、言いたくないのか。

クシェル
「…あら、起きた?」

ふあああ、と小さな声が上がる。

くるり、と大きな目が開いた。

ケニー
「…お前と同じ色だな」

クシェル
「親子だから」

そう言って、漸くクシェルはケニーを見た。

ケニー
「!」

その顔は、至極満足そうで。

ケニー
「…」

クシェル
「あら、お腹が空いた?」

ケニー
「!!」

兄の前で堂々と胸を晒し、クシェルは子供に乳を与えた。

ケニー
(…敵わねえな)

クシェル
「何?」

ケニー
「いや…」

ケニーは大きくため息を付いた。

ケニー
「兎に角、ここはガキを育てられるような所じゃねえ。色々準備して来っから、少し待ってろ」

クシェル
「いいわよ、大丈夫だから」

ケニー
「いいから。無茶すんなよ」

そう言ってケニーはありったけの金をテーブルに置くと、その家を出た。



クシェル
「…優しい、伯父さんね」



一生懸命に乳を飲むわが子の頬に


一滴


涙がこぼれた。





一ヶ月ほど経って。

ケニーがその家に行くと、そこには誰も居なかった。

ケニー
「…」

クシェルが働いていた娼館に行く。

どうやら、父親らしき男が迎えに来たらしい。

ケニー
「…」

クシェルがもし戻ったら、知らせを寄越すように。

そう言って娼館の女将に幾許かの金を渡し、ケニーは地下街を後にした。



地上に戻ると、雨が降っていた。

ケニーは深々と帽子を被る。

ケニー
「…」

『アッカーマン』の名の届かない所で、幸せになる。

そんな道があっても、いいんじゃなかろうか。



ケニー
「…幸せに」



心からの願いを込めて、ケニーはそう呟いた。





それから数年後。

ケニーの元に一通の手紙が届く。

そこには

『戻った』

という言葉と、日付だけが記されていた。

その日付も、2ヶ月も前のものだ。

ケニー
「…」

地下街からの手紙が真っ直ぐ届く訳も無く。

ケニー
(届いただけマシか…)

そう思い、ケニーは妹が以前住んでいた家を訪れた。


そこで漸く、リヴァイと再会することになる。



end

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