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□ハンジの憂鬱
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ハンジ
「ねえ、モブリット」

モブリット
「はい」

ハンジ
「あれで良かったかな〜!」

モブリット
「はいはい」

テーブルに倒れこむハンジの脇に、モブリットは資料を次々と置いていく。

ハンジ
「つれないなぁ」

モブリット
「だってそれ何度目ですか」




先日の壁外調査直後、ハンジはエルヴィン分隊長に呼びだされた。

直々の頼みというのは久しぶりなので、何かと思ったら。

エルヴィン
「リヴァイの事だが」

地下街出身の男。

演習では、調査兵団の歴戦の兵士達に並ぶとも劣らない動きを見せていた彼。

その彼を、英雄に仕立て上げる計画を告げられたのだ。

ハンジ
「それ、本人は知っているの?」

エルヴィン
「いいや。芝居ができるほど器用な男ではないだろう」

ハンジは、ふう、とため息をつく。

ハンジ
「…まあ、やってみるよ」

エルヴィン
「悪いな」

ハンジ
「じゃあ、あのお願い…」

エルヴィン
「…」

エルヴィンは手元にあった鍵を摘まむと、ゆらゆらとハンジに見せつけた。

ハンジが、すっと手を差し出すと、エルヴィンはヒラリと鍵を握り混む。

エルヴィン
「良い報告を待っている」

ハンジ
「…わかりました!分隊長どの」


大袈裟に敬礼をしてパタン、と部屋を出ると、モブリットが立っていた。

ハンジ
「いや〜!失敗できないねぇ」

モブリット
「え?」

ハンジ
「あ、モブリット。例の件、これが上手くいったら貰えそうだよ」

いくつかの書類をハンジはひらひら、と振って見せた。

モブリット
「はあ…。例の、とは部屋を」

ハンジ
「そう!念願の執務室だ!分隊長でもないのにね♪」

モブリット
「で、当の分隊長から何を頼まれたんです?」

ハンジ
「…調査兵団のマスコット作り?」

モブリット
「?」

ハンジ
「まあ、頑張ってみるよ。丁度これから夕飯時だし」

そう言って、ハンジは食堂へと向かった。





その結果、ちょっとした騒ぎを起こし。

ハンジ
「あああ〜」

モブリットは、ふう、とため息をつく。

それからずっと、毎日この調子なのだ。

ハンジ
「もうちょっと引き出せたと思うんだよ。結構あれで仲間思いな感じしたんだよね」

ぽす、ぽすとハンジの横に資料が積まれてゆく。

ハンジ
「本当に捻た奴は、あんなふうに回りに居る人を安心させたりしないからさ…」

ハンジは資料を寝そべったままパラパラとめくると、やる気無さげにため息をついた。

ハンジ
「どう?その後のみんなの反応」

モブリット
「…。彼が居ても、陰口を言う人は少なくなった気がします」

ハンジ
「そうか…。それならいいんだけど。ま、彼が大変になるのはこれからだしね」

モブリット
「?」

ハンジ
「エルヴィンが手配していたよ。庶民の娯楽新聞にでも、彼のことを書かせるのかな」

ハンジは体を起こすと、ううん、と言って伸びをした。

ハンジ
「地下街出身の男が、人類最強の兵士になる。こんな英雄譚は、人気になるだろうね」

モブリット
「…」

ハンジ
「次の兵団の式典でも、6体の討伐は表彰されるんじゃないかな」



ぽつぽつと話すハンジに、モブリットは背筋にじんわりと汗をかいていた。

モブリット
「エルヴィン分隊長は、初めから…」



そう、初めから。

地下街に、立体起動を使う厄介なゴロツキが居る。

そんな噂を聞いた時からこんなことを考えていたのだろうか。



ハンジ
「…。彼も気の毒に」



ハンジはじっと、壁に備え付けられた本棚を見た。

まだまばらにしか本は入っていない。

一人部屋が貰えたばかりだから、仕方が無いのだけれど。

部屋の鍵さえ何とかすれば、禁書を置いてもいいだろうか、なんて事を考えてみる。


モブリット
「…班長は、随分彼に肩入れするんですね」

めずらしくモブリットがそんなことを言うので、確かに、とハンジは思った。

ハンジ
「そうだね。どうしてかな…。大して話をした事も無いのにね」

モブリットは集めた資料をまとめて持ち、とんとん、と揃えた。

モブリット
「まあ、珍しいものに興味があるだけなんでしょうけど」

ハンジ
「お!その通りかもしれない!」



明るいハンジの笑い声と共に、開け放たれている窓から、ふわり、と風が通り抜ける。

くちなしの香りに、もう夏がくる、とモブリットは少々感傷的になった。

モブリット
「さあ、この資料に目を通して下さい」

ハンジ
「ええ〜やる気出ないなぁ」

モブリット
「班長!」

ハンジ
「はいはい」



リヴァイがこの部屋の扉をノックするまで、あともう少し。


end

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