Dream L

□Such Sweet Sorrow
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ハンジ
「リヴァイ!」

あれから数日が経った。

ハンジ
「小鳥ちゃん、元気?」

リヴァイ
「その呼び方止めろ」

リヴァイとハンジは、兵舎の廊下を歩いている。

ハンジ
「いやー!しかし、あれは宝の山だよ!」

どうやらハンジは、『図書館』で集めてきたものを調べているらしい。

集められたものは、一時的に食堂の一角に置かれていた。

ハンジ
「ある意味、ヤバイものだらけだって事だ」

リヴァイは黙って、ハンジの言葉を聞く。

ハンジ
「エルヴィンが摘発した、って事になってるから、荷物も暫くこっちで預かれるし」

とんとん、と階段を下りる。

ハンジ
「今のうちに、色々写したりパクったりしておかないと」

リヴァイ
「…」

ハンジ
「ね、リヴァイ」

リヴァイ
「なんだ」

階段を降り終わる。

ハンジ
「エルヴィンは…。エルヴィンなりに、彼女の事を」

リヴァイ
「…」

リヴァイはひら、と手を振る。

食堂に入ると、荷物の詰まれた木箱の一角まで歩く。

いくつかが開けられており、何人かが何が入ってるか記録していた。

ビル
「あ、お疲れ様です!」

その声にあわせて、皆が敬礼をする。

リヴァイはいい、とだけ言うと、箱の中の紙束を見る。

がさごそ、と中を漁り、一つを取り出した。

リヴァイ
「これ、貰うぞ」

ハンジ
「え、ちょっと」

リヴァイ
「お前だってパクってんだろ?」

ハンジ
「ぐっ」

リヴァイ
「たかが絵本だ」

ぴらり、とリヴァイが広げてみせる。

確かに、色とりどりの花が描かれているだけの物のようだ。

トン、とリヴァイはそれをテーブルで揃えると、食堂を後にした。





リヴァイは以前より頻繁に、アパートメントにいる○○○を訪ねてきた。

リヴァイ
「…土産だ」

ぱさり、とリヴァイは先程パクって来た紙束を○○○に渡した。

○○○
「これ…」

リヴァイ
「何か欲しいものがあったら、探してきてやる」

○○○
「…ううん。大丈夫」

その代わり、エルヴィンはあの後一度も来ていない。



○○○は少しずつだが、仕事を再開していた。

工房に行く度に、胸は痛んだけれど…何もしないままでは食べていけない。

正直、エルヴィンから紹介してもらった顧客はありがたかった。

リヴァイが持ってきた未綴じ本を捲る。

○○○
「…綺麗」

始めのページは身近にある花だが、進むにつれて見たことの無い花が色鮮やかに描かれている。

○○○は見て気がついた。

この本はきっと、エルヴィンが持っていたものと番いの本だ。

○○○
「…」

リヴァイ
「…気に入らねえか?」

台所で紅茶の準備をし始めた彼が声を掛けてきた。

○○○
「…ううん。ありがとう」

○○○はテーブルに、その本を置いた。

つ、と指で表紙をなぞる。

リヴァイ
「…○○○」

○○○
「大丈夫」




先日、ハンジが○○○の家に来た。

お見舞いと称して、色々と話をしていったのだ。


○○○は、中央憲兵に目を付けられていたらしい。

当然だ。父親が捕まっているのだから。

エルヴィンが声を掛けたのは偶然だったが。

ハンジ
「調べたら、君のお父さんと君の事は…結構すぐに分かったらしい」

○○○の父親が取引先の有力者に手を回し、○○○を見逃すようにしていた事も。

○○○
「…父さん」

ハンジ
「…エルヴィンは、彼なりにあなたを守ろうとしたんだと思う」

元凶であるあの場所がある限り、○○○は憲兵に追われ続けただろう。


あ、と言って、ハンジは○○○に本を渡してきた。

エルヴィンと出会った時に売ろうとしていた、青い革の本だ。




エルヴィン
「○○○」

優しくそう呼ぶエルヴィンの声を思い出す。

あの頃は、こんな事になるなんて思ってもいなかった。

あの夜、彼を受け入れていたら違う結果になっていたのだろうか。

それともこの本を、街に売りに行かなければ…



○○○
「…ありがとう、ございます」

ハンジ
「…○○○さん」

○○○
「あの、父は…?」

ハンジは首を、横に振った。

○○○の目からは、また涙が零れた。


○○○が落ち着くのを待って、じゃあね、とハンジは笑って帰った。

何かあったら相談してね、とも言っていた。




○○○
「…」

リヴァイ
「どうした」

○○○が笑ったように思えて、リヴァイは問う。

○○○
「調査兵団の人は、優しい人が多いの?」

そう言って彼に近づき、リヴァイを背から抱きしめる。

リヴァイは気に留める様子もなく、紅茶の準備を続けた。

リヴァイ
「…?さあ、どうだろうな。変人が多いとは思うが」

○○○
「そう…」

○○○はぬくもりを感じながら、本棚を見る。

○○○
「…」

あの、青い本が目に留まった。

同じ青い革にしてみようか。


リヴァイ
「○○○?」

○○○
「ね、キスして?」


リヴァイは黙って、○○○に答える。

柔らかな紅茶の香りが、部屋を満たしてゆく。



窓から吹き込んだ秋の風が、テーブルにあった本をめくった。


end
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