Dream L
□more and more...
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ガタン、ガタン、と馬車が揺れる。
今回、馬車に初めて乗らせてもらったけれど。
○○○
「…あまり乗り心地良くないのね」
エルヴィン
「ん?」
エルヴィンは何だか機嫌が良いようだ。
○○○
「何か、あったの?楽しそう」
エルヴィン
「いや…そうだな。公は君を気に入ったようだね」
○○○
「そう、だといいけど」
エルヴィン
「…」
石に乗り上げるたび、がたん、と馬車は大きく揺れる。
○○○
「…」
○○○はもそもそと、首の後ろを触る。
エルヴィン
「どうしたんだ?」
○○○
「ん…これ、返そうと思って」
エルヴィン
「!」
○○○
「ドレスの分は、本の仕事で返すわ」
エルヴィン
「いや…。それは報酬だと思って貰ってくれ」
○○○
「そういう訳には、行かないわよ」
そういいながら、でもなかなか取れないようで。
エルヴィン
「○○○、後ろを向いて」
○○○は疑いもせずその言葉に従う。
エルヴィン
(もう少し、危機感か何か…)
エルヴィンは軽くため息をつくと、○○○のうなじに手を当て、ネックレスの金具をはずす。
○○○の首には、もう花びらは無い。
エルヴィン
「…」
○○○
「!っ」
エルヴィンは○○○両腕を掴み、○○○の首筋に唇を寄せた。
○○○
「ちょ、やめっ」
○○○は身を捩って逃げる。
○○○
「エル、ヴィン?」
エルヴィン
「…どうして、逃げる?」
青い瞳が、暗闇で光る。
○○○
(ちゃんと、話さなくちゃ)
○○○はエルヴィンに向き直った。
○○○
「…エルヴィン」
エルヴィン
「ん?」
○○○
「私、好きな人が居るの」
エルヴィン
「…」
○○○
「…」
エルヴィン
「だから、これは貰えないと?」
そういって、先程はずしたネックレスを見つめた。
○○○
「そう、よ」
エルヴィン
「…」
ガタンガタンと、相変わらず馬車の音は煩い。
エルヴィン
「○○○、ひとつ聞いてもいいかい?」
○○○
「ええ」
エルヴィン
「好きな人、は恋人?」
○○○
「!、そ、れは」
エルヴィン
「夫?」
○○○
「…こ、いびと、よ」
好きだとすら言われていないけれど。
いや、言えない様に自分がしてしまったのだろうか。
ましてや夫、なんて。
エルヴィン
「…」
○○○
「…」
エルヴィンは大きくため息をついた。
エルヴィン
「さすがに結婚していたら、諦めもつくけど」
○○○
「エルヴィン…」
エルヴィン
「君ほど話が合う人は居ない」
○○○
「…!」
エルヴィン
「私にも、チャンスをくれないか」
○○○
「そ、れは、」
ガッタン。
馬車は大きな音を立てて止まった。
御者
「つきましたよ、旦那さま」
エルヴィンは開けられたドアから先に下りる。
彼が手を差し伸べるので、○○○は彼の手に手を添えた。
馬車を降りると、ひやりとした風が肌を冷やす。
エルヴィン
「答えは待つよ。今日はもう遅い」
○○○
「エルヴィン。でも、ごめんなさい」
エルヴィン
「…君の気持ちは、変わらない?」
○○○は頷いた。
エルヴィン
「分かったよ。おやすみ、○○○。良い夢を」
そう言って、エルヴィンは○○○の額にキスをしようとして、やめた。
○○○
「お、やすみなさい」
エルヴィンは早く部屋に入るよう○○○に促す。
○○○がドアを閉めたのを見届けて、馬車に乗り込んだ。
がたがたと、馬車が走り出す。
彼女が居ない。
たったそれだけの事なのに。
エルヴィン
(この馬車は、こんなに広かっただろうか…)
エルヴィンはポケットに入れたネックレスを取り出して、見つめた。
エルヴィン
「…」
馬車のドアを開けると、それを外へ放り投げた。
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