Dream L
□Levi
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いつ「その日」がくるか、誰にも分からない。
3年位、前のことだ。
一人でここに来るのは始めてて、すごく時間が掛かってしまった。
○○○はどうにか、『図書館』までたどり着いた。
もうすぐ夕焼けになるだろう。
○○○
(急がないと…)
上着を持ってこなかったせいか、少し寒くなって来た。
○○○は斜めになった廃墟を登る。
窓だったであろう所から、中に入った。
ランプの明かりで中を照らす。
○○○は散らばった仮綴じ本を拾い上げる。
何が売れるのか、売れないのか選別している時間は無い。
○○○
(できるだけ、多く…)
そうすれば、きっとお金が沢山入る。
ガタン、と向こうから音がした。
○○○
「!」
誰か、来たのだろうか。
急いで逃げなくては。
慌てて○○○は、崩れたテーブルを蹴飛ばし、椅子をガタガタと崩した。
○○○
(やっちゃった…!)
そう思ったときだった。
リヴァイ
「おい、○○○!いるのか?」
○○○
「!」
彼の声が聞こえた。
○○○
(来て、くれた)
何か約束があったわけでもない。
でも、その時○○○はそう思った。
○○○はドアから顔を出す。
○○○
「エル、…!」
彼は怒った顔をしていて、○○○の腕を掴むと『図書館』から引きずり出した。
○○○
「い、たいっ」
リヴァイ
「さっさと出ろ!」
げほげほと彼は咳をする。
○○○は本を抱えなおした。
リヴァイ
「もう来るなと言ったはずだ」
少し強めの口調で言われた。
でも、そんなことよりも。
リヴァイ
「!」
彼の顔を見て、ほっとしてしまったのだろうか。
リヴァイ
「…なんて面だ」
ぼろぼろと涙がこぼれた。
リヴァイ
「!」
本は紙束のように手の中を滑り落ちる。
○○○は彼に抱きついた。
○○○
「う、うぅっ」
リヴァイ
「…」
彼は息を吐くと、○○○の頭にぽん、と手を乗せてくれた。
リヴァイ
「…何があった?」
○○○
「お、かあさんが、病気で」
彼はわしわしと○○○の頭を撫でた。
小さい頃から、○○○が泣くといつもそうしてくれた。
ふうっ、と息を吐く。
安心したのか、体の力が抜けた。
リヴァイ
「金が必要なのか?」
そう聞かれて、○○○は素直に頷いた。
リヴァイ
「お前が死んだら世話ねぇだろ」
ほら、と、彼は○○○の顔を上げさせ、ハンカチで拭いてくれた。
白いハンカチは、あっという間に真っ黒になった。
リヴァイ
「親父さんは知ってんのか?」
○○○はふるふる、と首を横に振る。
リヴァイ
「本当に馬鹿だな…」
○○○
「だって、父さんお金を作るために寝ずに仕事してる。ここのを本にして売れば、そんなのしなくたって…」
リヴァイ
「危ねえ橋だって分かってんのか?」
○○○
「でも買ってくれる人いるし!」
止まった涙が、また溢れてきた。
リヴァイ
「…泣き虫め」
彼は○○○を胸元に引き入れて、トントンと背中を叩いてくれた。
ここの『図書館』には、色々な資料が残されていた。
学の無い人間から見れば単なる紙切れも、見る人が見れば、価値のあるもので…恐らく禁書と呼ばれる類だろう。
リヴァイ
「…いいの、見つかったのか?」
○○○
「あっ」
本!
足元に散らばっている仮綴じ本を拾い集めた。
○○○
「…これだけあれば」
うる、とまた泣きそうになるのを、どうにか押しとどめる。
リヴァイ
「…お前」
イザベル
「兄貴!やばい、Bad Bloodだ!」
声の方を見ると、高い建物の上に女の子がいる。
彼女が指差した方を見ると、黒い塊が見える。
リヴァイ
「チッ」
塊、は良く見ると、男達の集団だった。
野次るような口笛の音と、何かを叩く音が遠くから聞こえる。
ざわざわと、口汚い声も。
彼は○○○に自分の羽織っていたマントを被せた。
リヴァイ
「そいつをしまえ」
○○○
「…エル?」
リヴァイ
「イザベル!ファーランに知らせろ!!」
イザベル
「分かった!」
イザベルと呼ばれた子は、ひょい、と姿を消した。
リヴァイ
「○○○、行くぞ!」
○○○
「!?」
○○○は腕を引かれ走り出す。
瓦礫の山を駆け下りながら、本をリュックにしまった。
リヴァイ
「帰り道、分かるか?」
○○○
「うん!」
リヴァイ
「そうか」
彼は後ろを振り向いて舌打ちをする。
○○○も振り返ると、男達が追いついて来ていた。
リヴァイ
「…○○○、こっちだ」
○○○
「わ…っ!」
彼は○○○の腕を引いて、建物と建物の間の、狭い路地に押し込む。
リヴァイ
「行け!」
○○○は頷くと、奥へと走った。
リヴァイ
(ここでなら、少なくとも一対一、だ)
路地に入り込むと、リヴァイは半ばほどで止まる。
○○○は慌ててリヴァイの所へ戻った。
リヴァイ
「ここからでも、帰れるか?」
○○○
「だ、いじょうぶだと思う」
リヴァイ
「○○○、振り向かずに、走れ」
○○○
「…でも」
○○○にも、騒がしい音が近づいてくるのが分かる。
怖い。
建物の隙間から、男達の姿が見えた。
怖い、怖い。
棒やらバッドやら、良く分からないけれど武器を持っている姿が見える。
リヴァイ
「時間が無え、行け!、…っ」
彼を一人、残していくのは、怖い。
○○○はリヴァイの襟元を掴むと、自分に引き寄せた。
ガチ、と音がした。
彼にキスを、するつもりだったのだけれど。
○○○
「いたた」
歯があたった。
もっと、上手に出来るはずだったのに。
リヴァイを見ると、口元から血が滲んでいる。
彼はそれを、ぺろりと舐めた。
リヴァイ
「…ガキか」
そういって、笑った。
彼の後ろから、男達が近づいてくる。
時間が、無い。
○○○
「…エル、大好き」
リヴァイ
「…ああ」
○○○
「!」
ほんの一瞬の事だったと思う。
でも、凄くゆっくりにも感じられた。
彼の唇が、○○○上唇を食み、離れていった。
リヴァイ
「行け!」
彼はそう言い放ち、男共の方へ向き直った。
○○○は走り出す。
ベン
「無敵ぃリヴァイ!」
リヴァイ
「ベン…」
血祭りベン。
この辺で名を上げ始めた、若い男だ。
若いだけあって、手加減を知らない。
ひゅ、とリヴァイの脇を何かが通る。
リヴァイ
「!」
○○○
「きゃ!」
○○○は腕に衝撃が走り、足元がもつれて転んだ。
リヴァイ
「○○○!」
○○○
「っ、…!」
マントを羽織っていなかったら、どうなっていただろう。
○○○の腕は、僅かにナイフが掠っていた。
切られただろう所が、燃えるように熱い。
○○○は腕を押さえ立ち上がると、リヴァイに向いて頷き、走り出す。
逃げなくては。
自分がいたら、きっと彼の足手まといになる。
○○○
(強いって言ってた。大丈夫、きっと大丈夫)
○○○は零れる涙を拭って、走った。
ベン
「誰だ今の」
ひ、とベンの後ろに控えていた一人の男が息を飲む。
ベン
「…そいつ絞めとけ」
命令を受けた男達が、失敗したであろう男を引きずって行った。
ベン
「…女一人に、熱いねえ」
リヴァイ
「…御託は良い。誰からだ」
リヴァイの低い声に、怯む男もいたようだったが。
ベン
「…そう来なくっちゃ」
ベンはナイフを取り出すと、リヴァイに向かっていった。
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