Dream S

□とある一日
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今日はやけに風が強い。

兵舎の窓はガタガタと揺れ、落ち着かない気持ちをそのまま表しているようだ。

リヴァイは暗闇にろうそくをひとつ灯し、報告書を書いていた。

壁外調査から漸く戻れたこの日。

さっさと眠ってしまえばよいのに、気分が冴えてしまいそうもいかなかった。


こんな時は、○○○に会いたい。

抱きしめて眠りたい。

少し前まで、そう思う自分と、今日は駄目だという理由を探す自分とが拮抗していた。

そして、立場上無理。という結論を出して、報告書を書く事にしたのだ。



カリカリ、とペンを走らす。

リヴァイ
「!」

妙な気配を感じ、後ろを振り返る。

ヴィクトル
「おおっと、驚かしたかな?」

暗闇に、浮かび上がる白い影。

銀髪に青緑の瞳の美丈夫がそこに立っていた。

リヴァイ
「お前、何者だ」

リヴァイはゆっくりと椅子から立ち上がると、相手と距離を取る。

部屋のドアは閉まっていたはずだ。

どうやってこの男は、この部屋に入った?

ヴィクトル
「俺はヴィクトル・ニキフォロフ。スケーターだよ」

にこりと屈託無く笑い、男はそう言った。

リヴァイ
(すけーたー?)

新しい役職か何かだろうか。

それとも、巨人の、何か、か。

そうまで考えて、ぞくり、と背筋が寒くなる。

巨人がもし、その能力そのままに人の形を取れるとしたら。

忍ばせていたナイフに出を添えながら、リヴァイは姿勢を低くした。

ヴィクトル
「君の名前は?」

リヴァイ
「…」

答えてよいものか。そう思案していると男は笑う。

ヴィクトル
「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。でも代わりになんて呼べば良い?」

リヴァイ
「…リヴァイ、だ」

ヴィクトル
「リヴァイね、OK。ここは随分、クラシカルな部屋だね」

男はリヴァイの様子に目もくれず、窓の方へと歩いていった。

リヴァイ
(後姿を見せる、とか。この男何者だ)

ヴィクトルは窓の外を見て、真っ暗だね!と驚いていた。

リヴァイ
「お前、何しにきた」

ヴィクトル
「?、鑑賞だけど」

リヴァイ
「かんしょう?」

ヴィクトル
「ここは事務所か何かなのかな。目新しい絵画も彫刻も無いみたいだけれど」

リヴァイ
「?」

ヴィクトル
「…ここは、美術館の中じゃないのかい?」

リヴァイ
「び、なんだそれは」

ヴィクトル
「…俺は夢でも見ているのかな?」

言葉、表情、動きからは、男が演じているような雰囲気は無い。

ヴィクトル
「どこかで居眠りしちゃったかな。ま、良くあるんだけど」

男はリヴァイをじっと見つめた。

ヴィクトル
「…」

リヴァイ
「なんだ」

ヴィクトル
「君は日本人?」

リヴァイ
「ニホ…?」

ヴィクトル
「東洋の血が入っているのかな。美しい黒い瞳だね」

リヴァイ
「何を言ってやがる」

ヴィクトル
「ああ、ごめんね。大切な人と同じだったから」

リヴァイ
「…」

ヴィクトル
「ずっと彼のことを考えて歩いてたから、迷子になっちゃったかな」

リヴァイ
「…」

男はぽすん、とベッドに腰掛けた。

ヴィクトル
「君は、大切な人とかいないの?」

リヴァイ
「!」

二人の間に沈黙が走る。

リヴァイ
「居た、としても、なんでてめえに話さなきゃならねえ」

ヴィクトル
「まあ、それはそうだ」

リヴァイ
「迷子だってんなら、とっとと帰れ。その大切な人とやらが、待ってるんじゃねえのか」

ヴィクトル
「ああ、まあ…。待っててくれるかなぁ」

リヴァイ
「…」

ヴィクトル
「彼は俺が好きなのかな。それとも俺のスケートが好きなのかな」

リヴァイ
「…?」

ヴィクトル
「スケートをしなくなったら、彼は俺を好きじゃなくなるのかな」

リヴァイ
「…」

リヴァイの胸に、ある思いが甦る。

人類最強。

だから○○○は、俺の事が好きなのだろうか。

そう、思ってしまったことがあったから。

リヴァイ
「…うだうだ考えてねえで、相手に聞けばいいだろうが」

男はその答えに、驚いた顔をした。

ヴィクトル
「リヴァイ、君って結構優しいんだね」

リヴァイ
「はあ?」

ヴィクトル
「俺の悩みに、まじめに答えてくれた。そうだね、聞いてみるのが一番かも」

そう言って、男は立ち上がる。

ヴィクトル
「もう戻るよ。仕事の邪魔して悪かったね」

リヴァイ
「…戻り方、分かるのか?」

ヴィクトル
「大丈夫なんじゃない?分からなかったら誰かに聞くよ」

リヴァイ
「…」

ヴィクトル
「…君も、君の大切な人を大事にね」

リヴァイ
「!」

ヴィクトル
「伝えるべき事は伝えないと、すぐに居なくなっちゃうよ」

そう言って笑うと、男は部屋のドアノブに手をかけた。

ふう、とドアが開くと共に風が巻き起こったので、腕で目と心臓を守った。

リヴァイ
「!」

その、腕の隙間から見えた空間は、豪奢な宮殿のようだった。

人々がのんびりとした顔で、絵や、彫像を眺めている。

黒髪でメガネをかけた男が、銀髪の男を見止め慌てて走り寄ってきた。

そこで、ぱたん、とドアは閉じられた。

リヴァイ
「…」

部屋にはいつもの静けさだけがある。

リヴァイはそっと、ドアに近づいた。

ドアノブに触れてそれをまわすと、回らない。

鍵がかかっていた。

鍵をあけ、ドアを開ける。

そこにはいつもの、兵舎の廊下が広がっていた。

リヴァイ
(…化かされでもしたか)

そう思って、ドアを閉める。

リヴァイ
「…」

今から、なら。

まだ○○○は起きているだろうか。

他の兵たちの邪魔になるかもしれない、けれど。

リヴァイはランプを手に取ると、それに火を灯した。

再び部屋のドアを開け、廊下に出る。

居なくなってしまう、その前に。


その声を、その温もりを。


いつの間にか、廊下を歩く速度は速まっていった。


end

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