Dream S
□A Hopeless Wound
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兵士
「閉門!!」
大きな声と共に、地鳴りが響く。
リヴァイ
「…」
リヴァイはじっと門を見つめた。
門はゆっくりと降りてゆく。
どおおんん。
砂埃が立ち、門が閉まったことを知らせる。
リヴァイは、ほ、と息を吐いた。
リヴァイ
(…また閉じ込められた、というのに)
リヴァイは苦笑いをして、傍らにいた馬の鼻を撫でた。
今回の壁外調査はこれで終了だ。
あとは兵舎へ戻るだけ。
これがまた、一仕事ではあるが。
リヴァイ
「ん?」
見ると、一角が騒がしい。
一人の女兵士が、リヴァイに向かって走ってきた。
アルマ
「兵長、○○○が倒れました」
リヴァイ
「…どんな様子だ?」
アルマ
「過呼吸だと思われますが…」
リヴァイ
「救護班の馬車に乗せて運べ」
アルマ
「あの、でも…」
リヴァイ
「戻れ」
アルマ
「…はっ」
アルマを戻すと、リヴァイは馬に乗って皆の前に出る。
リヴァイ
「隊列を組みなおせ!これから戻るぞ!」
リヴァイの指示の元、調査兵団は列になった。
アルマ
「○○○、気が付いた?」
○○○
「ん、」
背中にガタガタと振動が伝わる。
どうやら荷馬車の上で横になっているようだ。
一応毛布が背に敷いてあるが、あまり意味が無い。
○○○
「わ、たし」
アルマ
「倒れちゃったんだよ」
○○○
「そ、か…」
ガタガタという音のほかに、人々の声が聞こえる。
喜ぶ声、罵声、色々だ。
アルマ
「兵長に、伝えたんだけど…」
申し訳なさそうなアルマを見て、○○○はその手を取った。
○○○
「気にしないで。大丈夫だから」
アルマ
「○○○…」
ぽんぽん、とアルマの手を叩くと、○○○は息を吐いて上を見た。
○○○
(空だけ見ていたら、塀の中も外も変わらないのに…)
広い空を、何かの鳥が飛んでいった。
○○○
(帰って、これた…)
○○○は大きく息を吐いた。
○○○
(ベッド、気持ちいい…)
医務室で○○○がうとうとしていると、ぱたり、とドアが開いた音がした。
仕切りのカーテンが開く。
リヴァイ
「○○○」
○○○
(あ、来てくれた)
リヴァイはカーテンを閉めると、○○○のベッドの傍らに座る。
リヴァイ
「気分はどうだ」
○○○
「もう落ち着きました」
リヴァイ
「そうか…」
リヴァイは○○○の頬に手を添える。
○○○
(温かい…)
○○○はリヴァイの手に触れる。
○○○
「すみません。ご心配をおかけして」
リヴァイ
「いや…。無事でよかった」
○○○
「…っ」
リヴァイの親指が、するする、と○○○の頬を撫でる。
○○○
「へい、ちょう」
途端に、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。
リヴァイ
「…」
○○○は体を起こすと、リヴァイに抱きついた。
○○○
「ぅ、っ、っ」
リヴァイは○○○の背に手を回す。
○○○は声を殺して泣いた。
○○○の班は、今回の遠征の帰路で全滅した。
奇行種の直撃を受けたのだ。
○○○は馬から飛ばされ、近くの林に突っ込んだ。
幸い葉がクッションになったのか、傷を負うことも無かった。
馬を呼び戻し、隊列に戻ると。
そこには仲間の残骸だけが残されていた。
煙弾を打ち上げ、何頭かの馬を集め。
○○○は救護班と共に、壁内に戻ってきた。
○○○はぎゅう、とリヴァイの背にしがみつく。
どうしようもない。それは分かっている。
でも。
○○○
「っ、ううっ、っ!」
リヴァイはそっと、○○○の背を撫でている。
リヴァイ
「…」
リヴァイの唇が、○○○の首筋に触れる。
リヴァイは○○○を、抱きしめなおした。
リヴァイ
「直ぐに傍に行けなくて、悪かった」
○○○は首を振る。
それがリヴァイの仕事だと知っているから。
卵を投げつけられても。
罵声を浴びても。
仲間が、死んでも。
リヴァイは前を向いて進む。
誰よりも多くの苦難を、その身に引き受けて歩く。
○○○
「も、だいじょうぶ、です」
リヴァイ
「…」
リヴァイは○○○を抱きしめていた腕を、少しだけ緩めた。
○○○はリヴァイから体を話す。
お互いの顔が、直ぐ傍にある。
○○○
「だいじょうぶ、です」
リヴァイ
「○○○」
○○○
「はい」
リヴァイ
「堪えなくていい」
○○○
「…堪えてません。大丈夫です」
○○○は笑顔を作ってリヴァイを見た。
○○○
「…」
じっと、リヴァイの瞳が自分を見つめている。
何もかも、見透かされそう、な。
リヴァイ
「…」
リヴァイはもう一度、○○○を抱きしめた。
リヴァイ
「○○○、泣いてくれ」
○○○
「…でも」
リヴァイ
「?」
○○○
「兵長だって…」
リヴァイが泣いていない。
自分よりも重いものを背負っている彼が、泣いていないのに。
○○○
「だから」
リヴァイ
「…フレーゲと、遠征から戻ったら買い物に行くんじゃなかったのか」
○○○
「!」
リヴァイ
「ユンカースから借りた本は、もう返したのか」
○○○
「へい、ちょう」
リヴァイ
「茶色い髪のあの男、お前に気が…」
リヴァイが口にする名は、○○○と同じ班の者たちばかりで。
次から次へと、無くなった者たちの顔が思い出される。
皆、気の合う仲間たちだった。
○○○
「ず、るい、でず」
○○○の目から、また涙が零れた。
○○○はリヴァイの服を掴む手に力を込めた。
リヴァイ
「…○○○」
○○○
「…?」
リヴァイ
「…泣け」
○○○
「!、っう、」
リヴァイの声には、ありったけの思いが込められている。
そんな気がした。
この人は、泣かない、ではなく、泣けない、のだろうか。
ずるい。
本当にずるい。
○○○は漸く、声を上げて泣きだした。
泣きつかれて、○○○は眠ってしまった。
リヴァイが仕切りのカーテンから出ると、アルマがそこに居た。
リヴァイ
「手間を掛けたな」
アルマ
「いえ…」
リヴァイ
「○○○は今眠っている。夜、迎えに来る」
アルマ
「分かりました」
医務室では、いまだに負傷者のすすり泣く声が聞こえる。
今回の遠征でも、沢山の仲間を失った。
見ると、アルマの顔色もよくないようだ。
リヴァイ
「お前も、休めよ」
アルマ
「…!、あ、りがとうございます」
リヴァイはそのまま、医務室を後にした。
リヴァイ
「…」
廊下に出ると、夕日が廊下に差し込み始めていた。
リヴァイは一歩を踏み出す。
リヴァイ
「…」
歩く気が起きず、立ち止まってしまった。
○○○を泣かせたのは、自分のエゴだ。
堪えることで、○○○が壊れてしまわないように。
リヴァイ
「…」
死んでしまった人間よりも、○○○の方を考えてしまう。
リヴァイ
(俺はもう、とっくに狂ってるんだろうな…)
この狂気の先に、一体何があるというのか。
リヴァイ
「…」
ケニーの言葉を思い出す。
『みんな何かに酔っ払ってねぇと、やってらんなかったんだな』
自分にとっての『それ』は何だろうか。
リヴァイ
「…」
リヴァイは視線を上げると、また歩き出した。
リヴァイ
(そんなもの)
夕日はいよいよ、燃えるような色で廊下を染め上げていった。
end