Dream S
□Left alone
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○○○
「リヴァイって、食べ方綺麗だよね」
自室で紅茶を入れながら、○○○はそう、リヴァイに話しかけた。
久しぶりにエルヴィン、ハンジもそろって外でゆっくりと昼食を食べた。
お肉…とは流石にいかなくて、魚のコースメニューだったが。
リヴァイはコートをハンガーにかけ、軽くブラシをかけている。
リヴァイ
「食べ方?」
○○○
「うん」
ナイフとフォークの所作が綺麗だった。
一切れ一切れ丁寧に切って口に運ぶし、決してハンジの様にそれで人を指さない。
○○○
「あれってエルヴィンが教えてくれたの?」
リヴァイ
「いや…」
○○○
「だよね」
エルヴィンでさえ、そんなに上手く扱えてはいなかったのだ。
いや、きっとそれが普通なんだと思う。
○○○
(地下街って、色んな人がいるんだろうな…)
そこで生まれてそこで死ぬ。
それだけでは無いんだろう。
きっと、ここから地下に行った人も沢山…。
○○○
「あ」
お湯が沸いたので、○○○は手を動かすことに集中した。
ティーポットにお湯を注ぐと、ふわりとした紅茶の香りが立つ。
○○○
(ん…良い香り)
○○○は頃合を見計らって、紅茶をソファの方へ運んだ。
○○○
「どうしたの?」
ソファに座っていたリヴァイだが、何だか考え込んでいる。
○○○はリヴァイの隣に座ると、ポットから紅茶をカップに注ぐ。
リヴァイの前に置くと、ん、とだけ言って彼はそれを口にした。
○○○
(この持ち方は、独特なんだけどな…)
○○○も隣で、紅茶を貰うことにした。
○○○
「ん、熱っ」
猫舌の○○○には少し熱いが、香りも味もしっかり出ている。
○○○
(これは及第点…!)
リヴァイと一緒に居るようになって、紅茶の入れ方も覚えた。
調査兵団を辞めることがあったら、紅茶の店でも開こうか。
リヴァイ
「昔…」
○○○
「?」
リヴァイが唐突に口を開いたので、○○○はカップを置いた。
リヴァイ
「母親がまだ生きていた頃の事だ」
○○○
「うん」
リヴァイ
「俺の一番幼い頃の記憶は…」
リヴァイは時折紅茶を口に含みながら話す。
リヴァイ
「広い石造りの屋敷と、庭にあった花の咲く木」
○○○
「!、それって…」
リヴァイ
「ああ、上に居たんだろうな。あと、何人か使用人が居たような気がする…」
リヴァイはふ、と優しい顔をする。
親しかった人が居たのだろうか。
それとも母親の事を、思い出しているのだろうか。
リヴァイ
「食べ方とか、そういう事は誰からも教わった記憶がない。だから…」
○○○
「そこで身に着けた?」
リヴァイ
「恐らくな」
○○○
「…そっか」
リヴァイはカップをテーブルに置いた。
紅茶は飲み干されていた。
○○○
「もう一杯、飲む?」
リヴァイ
「貰おう」
○○○は笑って、ポットから紅茶を注ぐ。
ふわり、と優しい香りがあたりに広がった。
リヴァイ
「以前」
○○○
「うん」
リヴァイ
「仲間に、星について聞かれた事があった」
○○○
「星?」
リヴァイ
「地下街の仲間だ」
○○○
「あ…」
リヴァイ
「揃って星を見ていた時だ」
○○○
「…」
リヴァイ
「…子供の頃と、同じような星空か、と」
○○○
「うん…」
リヴァイ
「同じ、だった」
つぶやく様にそう言うと、リヴァイは紅茶をまた口に運んだ。
○○○
「…」
○○○も紅茶を口に運ぶ。
ゆら、ゆらと柔らかく紅茶はカップの中を遊ぶ。
以前噂で聞いたことがある。
リヴァイは何人かの仲間と地下街からやって来た、と。
その仲間の事だろうか。
○○○はまだ、リヴァイからその話を聞いたことが無い。
リヴァイは思う。
あの時、何故イザベルの問いを、適当に受け流したのか、と。
今の自分なら、どう答えただろう。
今見ている景色の方が、綺麗だ、とでも言えるのだろうか。
リヴァイはふう、と息を吐いて、紅茶を置いた。
リヴァイ
「!」
○○○は何となく、そうしたくて。
そっとリヴァイを抱きしめた。
リヴァイ
「どうした?」
○○○
「ん?んー…」
地下にいたら、星は見られない。
自分達が当たり前に思っていることも、場合に寄っては当たり前じゃ無い事がある。
彼はそういったものを、きっと自分より沢山知っている。
リヴァイはぽんぽん、と○○○の背を叩く。
リヴァイ
「…温かいな」
○○○
「うん」
ただ、今。
こうしていられることが。
幸せだから。
○○○
「愛してる」
リヴァイ
「ああ、俺も…」
続くリヴァイの言葉が、○○○の胸に優しく響いた。
end