Dream S
□Confidential
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○○○
「もうやだぁ」
リヴァイ
「…」
リヴァイのうんざりする顔を見ても、どうしても○○○はそう言いたかった。
今日は休日だというのに、洗濯やら掃除やらをさせられている。
空は青々として、雲は白い。
彼に言わせると、洗濯日和だ。
でも、○○○としては、恋人としては。
○○○
(せめて午後からでも、二人で出かけたりしたかったのに…)
○○○はモップを恨めしそうに見る。
○○○
「絶対終わらない…」
小さくそう呟いた○○○に、リヴァイは暫し考える。
リヴァイ
「…○○○」
○○○
「?」
リヴァイ
「風呂に入って来い。後はやっておく」
○○○は少し拗ねたような顔をしたが、そのまま風呂場に向かった。
リヴァイは大きく、ため息をついた。
○○○
「わ…」
風呂上りの○○○が見たものは、ピカピカになった部屋だった。
○○○
(私が手伝わなくても、良いんじゃないかな)
リヴァイは○○○と入れ替わりに風呂に入っている。
○○○
「…」
わがままを言い過ぎた、かも知れない。
風呂から出た彼にお茶をすぐ出せるようにと、○○○はお湯を沸かした。
リヴァイ
「ん」
風呂上りの彼に、紅茶を出す。
夏摘みのダージリンは、さわやかな香りで部屋を満たした。
髪が、濡れているせいか前で分けられていない。
幾分幼く見えるが、○○○は結構それが好きだったりする。
リヴァイ
「…○○○」
ソファに座ったリヴァイが、珍しく手を広げている。
○○○はそのまま、彼の目の前まで来る。
リヴァイは○○○の腰を抱くと、自身に引き寄せた。
○○○
「ど、したの?」
○○○はリヴァイを跨ぐ様にして、座った。
リヴァイは○○○の胸元に顔を当てている。
○○○
(よく、分からないけど)
○○○はそっと、彼を抱きしめた。
石鹸の香りが、する。
○○○
(温かくて、良い匂い…)
リヴァイ
「○○○」
○○○
「?」
リヴァイ
「俺が地下街出身なのは、知っているな?」
○○○
「うん…」
リヴァイ
「俺の母親は、娼婦だった」
○○○
「!」
リヴァイ
「親父は…知らねえ」
○○○
「…うん」
○○○の胸元で、ぽつり、ぽつりと小さい声がする。
リヴァイの顔は、○○○からは良く見えない。
リヴァイ
「俺は…」
一瞬、リヴァイは息を止めた。
リヴァイ
「母親は、ガキだった俺を残して死んだ」
○○○
「うん…」
リヴァイ
「俺は暫く、その死体と一緒に居たんだ」
○○○
「!」
リヴァイは○○○を、強く抱きしめなおした。
リヴァイ
「ドアを、開ければ良かった。部屋を出れば、良かったんだ」
○○○
「…」
リヴァイ
「でも俺はガキ過ぎて、何も、出来なかった」
○○○
「…」
○○○もリヴァイを、強く抱きしめ返す。
リヴァイ
「肉が腐る匂いと、物がカビる匂いと」
○○○
「…」
リヴァイ
「部屋ってのは、何もしなくても埃が溜まっていくんだ…」
○○○
「…」
リヴァイ
「虫が集まって、飛んで、煩くて邪魔で臭くて」
リヴァイは○○○の胸に耳を当てる。
トクン、トクン、と心臓の音がする。
ここにいるのは、あの死体じゃなくて、生きている○○○だ。
そう実感できて、リヴァイは話を続ける。いや、続けられる。
リヴァイ
「吐きたくても、胃の中には何も無くて、胃液だけ吐いて、喉が焼けて、胃液すら出なくなって」
○○○
「…」
彼の肩が震えているように思えて、○○○はそっと彼を抱きしめ直した。
リヴァイは大きく大きく息を吐いた。
リヴァイ
「俺は…。運よく、人が来て、今ここにいる」
○○○
「うん」
リヴァイ
「だが思い出すんだ。あの時の事を」
○○○
「リヴァイ…」
リヴァイ
「だから、俺は…」
そう言って、リヴァイは言葉を詰まらせた。
○○○
「…」
こんな事を、彼に言わせてしまった。
今彼は、どんな気持ちでいるのだろう。
彼の顔を見たくても、彼は顔を隠している。
○○○
「…部屋が綺麗だと、安心するの?」
そう問うと、彼は少し考えたようだった。
リヴァイ
「そ、うだな」
○○○
「だから掃除するの?」
リヴァイ
「…多分」
○○○
「そっか…」
リヴァイ
「俺は、おかしいか?」
そう言って、リヴァイは顔を上げた。
○○○
「…」
その瞳が、真っ直ぐに答えを待っている。
○○○はそっと、リヴァイにキスをする。
ふるふる、と首を振ると、リヴァイの表情が弛んだ気がした。
○○○
「話してくれて、ありがとう」
リヴァイ
「○○○…」
○○○
「…。でも、お掃除は大変!」
リヴァイ
「!、おい…」
○○○
「ちゃんとやる。あなたのために。でも、文句くらい言わせてね」
そう言って、○○○はリヴァイの目蓋にキスをした。
にっこり笑って、彼を見る。
リヴァイ
「…」
リヴァイはひとつ、低い声で唸ると。
○○○
「!、ちょっ」
○○○の胸を掴み、やわやわと揉み始めた。
リヴァイ
「…お前次第、だな」
そう言って、笑う。
いつものリヴァイだ。
○○○
「!」
リヴァイ
「いい声で鳴けよ」
○○○
「んんっ」
まだ日は高いのに。
○○○
「ど、して、んっ、するの?っ」
リヴァイ
「…感じるだろ?」
生きてるって。
○○○の耳元で、リヴァイは小さく囁いた。
せめてカーテンはして欲しい。
そう思う○○○は、リヴァイ越しに窓の外の青空を見た。
地下街の彼は、今青空の下に居る。
end