Dream S
□闇夜に黒猫、桜に恋慕
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○○○
「リ、ヴァイ兵長…?」
○○○はそのまま固まってしまった。
事の起こりは十数分前。
ひゅう、と○○○の頬をひんやりとした風が通り過ぎてゆく。
漸く太陽は姿を隠し、一番星がきらめき始めている。
○○○はゆっくりと、芽吹いたばかりの草花を踏みしめながら丘を登っていた。
調査兵団の宿舎の裏には、兵団の全員が整列できる程の広さの敷地がある。
朝礼や演習などに使われるそこの、さらに奥。
少し小高くなった丘に、一本の大きな桜の木が植えてあった。
その後ろには、石畳の壁。
まるで平和と隔離されているようなその存在の前に、その桜は青々と枝葉を伸ばし立っていた。
○○○
「ふう」
○○○は息をついて、その桜を見上げた。
枝の先はもう緑の葉を晒し、花びらは風が吹くたびにちらちらと散っていく。
○○○
(…綺麗)
ふ、と顔を緩ませていると、後ろから声が届く。
ハンジ
「○○○!準備はいいかーい?」
敷地の真ん中ほどから、ハンジが声をかけてきた。
かなりの距離があるというのに、その声は余裕でここまで届く。
○○○
「!、待ってくださーい!!」
聞こえたかな、と思いながら、○○○は急いで持っていたランプを木の枝にかけ、火を灯した。
ほう、と灯りが辺りを照らす。
○○○は、小さく束ねられた紙とペンをカバンから取り出した。
○○○
「準備できましたー!」
声が届いたかとハンジ達の方を見ると、モブリットが手を振ってくれた。
ハンジ班の班員たちが、敷地の中央で忙しく実験の準備を進めている。
青い夕闇の中に、それぞれのランプの灯りがゆらゆらと動き、なんとも不思議な光景だ。
○○○
(…ああ、ホタル、みたい)
黄昏時は人をロマンチストにでもさせるのだろうか。
そんなことを考えていると、モブリットが、さ、と手を上げるのが見えた。
こちらも手を上げて答える。
ハンジ
「いっくよー!」
気前の良い声が上がると、一際大きな火が灯される。
○○○
「!!!」
大き目の破裂音が鳴り響き、それは空に上がった。
ふわ、と空に光が広がる。
○○○
「…!」
○○○は急いでメモを取った。
○○○
(…結構広範囲に光が広がる。敷地外まで…あの位だと)
ふわ、とその光が消えていく。
○○○
(10〜15秒程度…一分は持たない)
しん、と辺りはまた夜に包まれた。
○○○
(火薬の量の調整をする…?それとも)
「…おい」
○○○
「!?」
人の声が聞こえて、○○○は後ろを振り返った。
○○○
(…?誰も、いない…?)
「おい、今のはなんだ」
○○○
「!」
声の聞こえた方に目を向ける。
桜の木の大きな枝の上に、その影はあった。
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