Dream L
□Erwin
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あの後、度々○○○は兵舎を訪れていた。
父のストックの中からエルヴィンが気に入りそうな本を持って行くと、彼は興味深そうにそれらを読んだ。
大抵禁書扱いにはならない物だったが、たまに、危ないものが混じっているようだった。
自分じゃよく、分からない。
気に入ればエルヴィンはその本を買い取ってくれて、それは執務室の本棚にずらりと並んでいった。
最近では、エルヴィンが読みそうなものは製本前に持ち込み、どのように装丁すればいいか相談するようにもしていた。
○○○
「送ってくれて、ありがとう」
街の中を、二人で歩く。
エルヴィン
「いや、夕食を食べ損ねていたから、丁度良かったよ」
そう言ってエルヴィンは、先程買ったサンドイッチの袋を持ち上げて見せた。
エルヴィン
「今日は遅かったね」
○○○
「もう少し早く行けるはずだったんだけど」
エルヴィン
「まあ、忙しいのは良い事だよ」
○○○
「うん」
そう言って、○○○は笑った。
良い装丁屋が居る、という話をエルヴィンが広めているせいで、ここの所○○○の仕事は少しずつ増えていた。
○○○
「お腹が空かないって、大事ね」
エルヴィン
「そうだな」
街灯の橙色の明かりがちらちらと揺れる。
その中をただ歩く。
○○○
「結構遠くまで来たけど、大丈夫なの?」
エルヴィン
「いざとなったら馬車でも使うさ」
○○○
「お金持ちね」
エルヴィンは笑う。
エルヴィン
(他愛も無い、こんな話が楽しいなんて)
○○○
「ここよ」
○○○は足を止める。
三階建ての、小さなアパートメントだ。
白い壁で、窓枠は青く塗られている。
古くはあるが、手入れが行き届いていた。
○○○はこの青が好きだった。
○○○
「一階が大家さんなの」
そう言って指を刺した先には、大きな窓がある。
窓際には色とりどりの花が飾られていた。
エルヴィン
「それなら、安心だね」
○○○
「お茶でも、飲んでく?」
エルヴィン
「!」
○○○は社交辞令とも取れるように、言ってみた。
エルヴィン
「…いいのかい?」
そう言われて、○○○は笑った。
○○○
「断るかと思ったわ」
エルヴィン
「そうした方がいいなら」
○○○
「いいえ。誘ったのは私だもの」
そう言って、○○○はアパートメントの鍵を空けた。
開いたドアの正面に、階段がある。
左のドアから、老婦人が顔を出した。
大家
「○○○、おかえり」
○○○
「ただいま、おばさん。騒がしかった?」
大家
「かわいい声が聞こえてたよ」
○○○
「もう」
エルヴィン
「はじめまして。エルヴィン・スミスです」
大家
「おや、はじめまして。私はメアリー・マグゴナル。挨拶できる、いい子だね」
○○○
「友達なの。部屋に上げていい?」
大家
「お前はもう大人なんだから、自分で決めて良いんだよ」
○○○
「…そ、だね」
大家
「ああ、明日の朝、うちに来なさい。田舎の弟が野菜を沢山くれたんだ」
○○○
「うん、わかった。おやすみなさい」
大家
「おやすみ」
二人は軽いハグを交わした。
○○○は、木で出来た階段を上ってゆく。
エルヴィン
「仲が良いんだね」
○○○
「両親の、仲人さんなの」
エルヴィン
「!、そうか…」
○○○
「ここよ」
外の窓枠と同じ色の、青いドア。
○○○
「上るのは少し大変だけど、眺めはいいのよ」
そう言って、○○○は部屋のドアを開けた。
それから。
エルヴィンと買ってきたパンをパクつきながら、色んな話をした。
○○○の部屋は、元々家族で住んでいた所だ。
○○○
「可愛い絵でしょ?」
エルヴィン
「女の子向けかな」
二人で本を開く。
○○○の家の本棚には、沢山の本が並んでいた。
○○○
「こっちは、良く分からないんだけど」
エルヴィン
「科学書のようだね。ハンジが喜びそうだな」
○○○
「ハンジ?」
エルヴィン
「同期だよ」
○○○
「学者さんなの?」
エルヴィン
「違うが…まあ、似たようなものかな」
○○○
「ふうん」
じゃあ、これは、これは。
○○○は部屋の奥から、いくつか製本されていない本を持ってきた。
○○○
「父の大事なコレクションなの。いつか製本するんだ…」
綺麗だ。
○○○
「え?」
エルヴィン
「いや…」
ゆらゆらと、ランプの炎が揺れる。
○○○
「これ、なんて読むのかな…」
エルヴィン
「ん?」
○○○
「滲んじゃって」
エルヴィン
「どれ?」
そう言うと、エルヴィンは○○○の脇に立ち、本に顔を近づけた。
○○○
「何、だろう」
エルヴィン
「文脈からは、赤、かな」
○○○
「うーん…」
エルヴィン
「…愛してる」
○○○
「どこを読んでいるの?」
エルヴィン
「いや、何も読んでいないよ」
○○○
「…?」
そっと。
エルヴィンの唇が○○○の頬に触れる。
○○○
「あ、の…」
エルヴィン
「○○○…」
低く、優しくそう囁かれて。
二人の唇が触れるのは、とても自然なことのように思えた。
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