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□煉獄 杏寿郎
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愛でお腹いっぱい! 12話
「どうしてだろうねぇ?」
「どうしてなんだろうなぁ?」
お互いの手によって生み出されたダークマターを目の前にして、腕を組みながら呑気に首を傾げてみる。
彼がやっている腕組みとは逆になっていた為、じっくり見てから同じになるようにしてみた。
真似するなと頭を軽く小突かれてしまい、暴力反対だと反論する。
このやり取りも楽しいといえば楽しいが、今から胃袋に入るであろうソレを見ると気持ちが段々と下がっていく。
今度こそは上手く出来ると思ったのだが、何が悪かったのか。
「杏寿郎さんが失敗するのは分かりきったこととして、私のはどうしてこうなったんだろう?」
「喧嘩を売られているのならば買おう!」
「まさか、そんなわけ…い゛ったい!大人気ない!」
後ろに回られて首を腕で軽く絞められる。
後で泣かしたいと決意しながら、ぺしぺしと抗議の意味を込めて逞しい腕を叩いた。
前回も同じ失敗をしたのを私も学ばなかったらしい。
オーブンを開ければ真っ黒なものがコンニチハと挨拶をしてきたので思わず閉めてしまったが、杏寿郎さんの手によって現実を突きつけられてしまった。
「それで、これは何を作ろうとしたのだったか」
「ケーキのスポンジです」
「俺はおにぎりだ」
「前も似たようなのだったから、ちゃんと理解してる」
「さっきから喧嘩を売ってくるいけない口はこれか?」
みよーんと伸ばされた両頬は思いの外痛くない。
もしかすると太ったのかもしれない。痩せねば…。
「杏寿郎さん、腹を括りましょうか」
「死にたくないのだが」
「それは私も同じだけど処理しないと」
「処理」
お箸を渡せば真顔で受け取ってくれた。きっと私も真顔だったのだろう。
いざ食べようとしたものは、結局食べることができなかった。命の危険を感じたからだ。
勿体ないと分かっていてもゴミ箱に入れられたそれらに手を合わせて、次はこうならないように頑張ろうと仲直りの握手を交わす。
杏寿郎さん。
おにぎりと思われるものによって折れた私のお箸、杏寿郎さんのお小遣いで買ってもらいますからね。
2021.01.25