******

□企画夢
4ページ/8ページ



―――生チョコタルト届いたよ〜!とても美味しかったよ、ありがとう!


届いたメッセージを見て顔が綻ぶのが自分でも分かった。
蜜璃ちゃんはとても喜んでくれたみたいだ。
続いてピコピコとなるスマホの通知を見れば、しのぶちゃんと伊黒さんからのメッセージも順番に届いていた。


―――美味しかった。来年も頼む。

―――素敵なものをありがとうございます。後で姉と頂きますね。


律儀に一言でもメッセージを送ってくれる。
素敵な友達を持てたと思う。感謝の気持しかない。

ふう、一息ついてPCの画面を見直すも、未だに迷っていて決められない商品の画像がたくさん並んでいる。
友達のところには一足早く届いたバレンタインのお菓子。
しかし恋人の煉獄さんには何を送るべきなのか決めることが出来ないまま、既に前日も終わりを迎えていた。

「どうしよう…」

呟いたところで何も変わらないのに。
よろよろとベッドまで近付いて、並んでいるぬいぐるみの内の一つをぎゅうと抱きしめる。
ふとぬいぐるみから香った太陽のような香りが私を包んで、柔らかな感触にうとうととそのまま眠りについてしまった。



「いらっしゃい、お仕事お疲れ様」
「ありがとう!」

部屋に響いたインターホンに心を踊らせて玄関を開ければ、仕事を終えてから急いで家に帰り、ある程度の準備をして走って来てくれたであろう煉獄さんがいた。
寒い中向かって来てくれたにも関わらず嫌な顔一つしていない。
しかし寒さには勝てないのであろう、ほっぺや鼻の頭は赤みを帯びていて外の寒さを私に伝えている。

部屋の中に充満している甘い匂いに気付いたであろう煉獄さんは、玄関に入るやいなや、ぎゅっと優しく抱きしめてくれていたがするりと離れていき、きょとんとしている。

「今日はバレンタインデーでしょう?お菓子を作ってみたの」
「それは楽しみだな、君のお菓子は毎年楽しみなんだ」

目元に寄せられる唇はとても冷たかったのに、熱さを感じ、そしてとても甘く、恥ずかしさでくすぐられているようだった。


共に部屋へ向かえば、コタツの上に広がるたくさんのスイーツとフルーツ。
その真ん中には甘い甘い海が広がっていて、時たまコポリと気泡が弾けている。

「これは?」
「チョコレートフォンデュだよ、周りのスイーツは頑張って作ってみたの」

ありがとう、とはにかんでいる姿は年上とは思えないくら可愛くて、少年のようだと思ってしまった。
これは一体どうやって食べるのかとそわそわしている姿に悶えてしまいそうになってしまったが、一度やり方を見せれば流れるように食べ進んでいく。
今日は色々トラブルがあり、お昼のお休みにお弁当を食べることができず、放課後になってから食べたと聞いていたので、晩ご飯よりも間食メインで進めてみたが、どうやら正解だったようだ。

ホクホクとした顔で食べ進めていくその姿にきゅんとしながら、私もたくさん食べようとピックを手に取り甘い海にスイーツを沈めていった。



「もうお腹いっぱい、食べられない〜…」
「楽しかったし、とても美味かった」
「良かった!ちょっと手軽にしすぎて満足できるかどうか心配だったの」
「君の作ってくれたものなんだ。満足しないわけがない」

ちゅっちゅっ、と寄せられた唇からはとても甘い香りがする。
その香りに溶けてしまいそうだ。男の人だというのに甘い香りがとてもよく似合い、そして私を包み込んでくれる。

「そうだ、少し待っていてくれ」

そう言って急に立ち上がったかと思えば、玄関まで消えていった煉獄さんにどうしたのかと首を傾げる。
ガサガサと音がしたと思えば、いつの間に置いていたのか大きな紙袋を手に嬉しそうに戻ってきた。

「これを君に」

手渡された紙袋と煉獄さんを交互に見て、恐る恐る取り出してみるとふわふわとした感触のものとご対面した。

「わあ…!キツネ!」
「君の部屋にはぬいぐるみがあっただろう?犬と猫がいたから、キツネはどうだろうかと思ってな」
「すごいふわふわしてる…。ありがとう、煉獄さん!」

思わずぎゅうと抱きつくと、鬱陶しがらないで優しく腕を回して抱きとめてくれる。
温かい。コタツにいるからというのもあるかもしれないが、心の中まで本当に温かい。

私には勿体ない人だと、これまで何度も思ってしまったことがあった。
その度に自己嫌悪に陥り涙した私を、何度も何度も優しく受け止めてくれた煉獄さん。
何度ありがとうと大好きを言っても足りないくらいだった。
私は煉獄さんに何を返すことが出来るのだろうと何度も考えては、私が今まで貰ってきたたくさんの愛を、私も煉獄さんに私の愛でたくさん包んであげたくなってしまって。

バレンタインとは、どうしてこうも甘い甘い感情でいっぱいになっってしまうのだろう。
どうしてこんなにも幸せと感じてしまうのだろう。

「今、何を考えている?」

ふと耳元に寄せられた口から発せられた言葉は酷く甘く、そして低く鼓膜を震わせていく。
ふふ、と笑いながら内緒と答えると、俺以外のことを考えるのは頂けないなと笑うものだから、思考にまでヤキモチを焼いてしまう煉獄さんの何と可愛いことか。

「煉獄さんが好きすぎて、どうにかなってしまいそうなの」
「よもや…」
「私も煉獄さんに渡したいものがあるの」

そう言って立ち上がり、引き出しを開けてお目当てのものを出す。
喜んでくれるだろうか、私の欲でしかないこれは男の人からすればあまり良いものではないかもしれない。
それでも朝から丁寧に組んで、何とか二人分を作れた。

「これは…」
「煉獄さんも髪を結うでしょう?付けづらいかなって思ったんだけど…、付けて欲しいなって」

大きな手で受け取ってもらった髪紐はとても小さく見えるが、そこそこしっかりと組んだものなので私からすれば大きいサイズである。

煉獄さんは太陽のような人だと思う。
そのイメージとして黄色、橙、赤と明るい色ではあるものの、きっとその獅子のような髪に合うのではないだろうか。
色が被ってしまうだろうかと懸念はありもしたが、それでもこの色の髪紐を付けて欲しかったのだ。

「ありがとう、とても嬉しい」
「1人で着けるのは大変だと思うから、休みの日に着けてあげるね」
「いや、毎日着けよう」
「え?でも、」

ぱさり。
指で引っ掛けたゴムを取り去った煉獄さんは、ふわふわとした髪の毛を自由にしていた。

ああ。なんて綺麗なのだろうか。

「サキに毎日着けて欲しい」
「まい、にち」
「一緒に住まないか?」

緊張しているのだろうか。
視線を合わせれば、口を真一文字にした煉獄さんが少しばかり目をキョロキョロしている。
それが少し可愛くて笑いそうになってしまったけれど、私の答えはもう決まっている。

「喜んで」

愛おしそうに抱きしめてくれる煉獄さんの腕の中は、とても幸せに溢れていた。


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ