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□煉獄 杏寿郎
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家に帰ると火事かと思うぐらいの焦げ臭さに驚いた。
慌てて脱ぎ捨てたヒールはカツンとどこかに当たってしまったが、今はそれどころではない。
バタバタとリビングまで走り、臭いの元であろうキッチンに向かうと極限まで眉尻を下げている杏寿郎さんがそこにいた。

「ど、どうしたの!今どういう状況!?火事!?」

「すまない!!フライパンを焦がしてしまって…」

一先ず無事な彼を見て安心できたが、酷く落ち込んでしまっているようだった。
残業で帰りが遅かった私のために、何かを作ろうと頑張った結果なのだろう。
お値段以上のなんちゃらで買った安物のフライパンはもう1年以上も使用しているのだから、買い替え時だと思えばいい。何も問題はない。

大丈夫だよ、と彼の頭を自身の肩に抱き寄せればおずおずと腕を回され、消え入りそうな声でもう一度謝られてしまった。
怒ってないのになあ。

ちらりと視界の端にいるお皿に乗せられた焦げている物体。
薄黄色と真っ黒が見える辺り、卵焼きでも作ろうとしたのだろうか。

「ありがとうね」

「失敗してしまった。共に買いに行った物も駄目にしてしまった」

「それでも、ありがとう。頑張ってくれたんだよね」

ゆっくりと離れてひょいっと焦げた卵焼きらしきものを口に放り入れると、何をしてる!と慌てて背中を擦られる。

「おお。これは中々」

「食べれるものじゃないだろう、全く何をしてるんだ」

「そうじゃなくて。焦げてはいるけど、味はそんなに悪くないよ。
 私の好きな甘い卵焼き。味付けはバッチリだよ、美味しい」

次は火加減を覚えましょうね。


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