荒波一期(仮)
□風丸一郎太の回想
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「まあ……、こんな感じかな」
「で、ずっと告白できなくて今に至るんだね」
ドスッという音をたてて、マックスの言葉が突き刺さった気がした。
「……それらしいことは何度か言ったんだ」
「美波にはストレートに言わないと伝わらないと思うよ」
「ああ……」
美波のことだ。遠回しに言ったくらいじゃ、伝わらないってことぐらいわかってる。
でも……、
「なんだろうな……。今の関係を壊したくない、って気持ちもあるんだ」
「ネガティブだなあ」
「そういう一之瀬はどうなんだ」
そう言えば、一之瀬は口をつぐんだ。一之瀬は幼馴染みの木野が好きだけど、木野はそれを知らない。
加えて木野には好きなやつがいる。そしてそれは、一之瀬ではない。
「俺と風丸って似てない?」
「生憎美波に好きなやつはいないからな」
「いつできるかわからないよ?」
「それは……そうだけど、」
現時点で強いて言うなら、サッカーだろうか。……勝てる気がしない。
それに、一度だけ……一度だけだけど、ちゃんと告白しようとしたことがある。もっとも、上手くいなかったけど。
思えば、あの時一度、俺たちの関係は壊れかけていたように思う。
「はあ……」
「陰気くさい顔すんなって」
「……悪い」
「幼馴染み、か……。でも、俺たちより距離は近いだろう」
「まあ……」
一緒にお祭りに行ったり、お互いの家に泊まったこともある。
新年の初めの挨拶は美波……と円堂だったし、初詣にも行った。
そういえば海にも行ったな。それと、一緒に風呂に……、
「……」
いや、落ち着け俺。風呂に入ったなんてもう何年も前のことじゃないか。
「風丸顔赤いよ」
「……」
何を考えているんだ俺は!
ていうかさっき豪炎寺、しれっとした顔で距離について聞いてきたな。普段はこの手の話は避ける癖に……!
こちらから仕掛けてやろうかと思っていたら、今度は鬼道が話を振ってくる。
「幼馴染みということは、それだけ苦労する時もあるんじゃないか?」
「……異性として見てもらえないっていうか」
「そもそも美波本人が恋愛に興味ないみたいだからな」
「確かに」
「幼馴染みで親友でいい相談相手止まりって感じか?」
「まあ、そうなるのかな……」
「さっさと言えばいいのに」
「それが出来ないから苦労してるんだろ」
盛大にブーメランしている一之瀬に、呆れたような土門が言う。
前途多難だとつくづく思う。常に円堂が牽制してるけど、ライバルはどんどん増えるし。
豪炎寺に鬼道、あと佐久間。ここにきて3人も増えるなんて。
「ていうか呼び方、あだ名だったんだな」
「まあな」
「彼女らしいよね……」
「いたのか影野……。そういや円堂はどうなんだよ。名前で呼んでたんだろ?」
「なんか高学年なったら恥ずかしくなって、自然と名字になったんだ」
正確に言うと、名前呼びのことをからかわれたからだ。言われてみると恥ずかしい気がして、次の日からは名前呼びをやめた。
「(懐かしいな……)」
その時、
「悪い!遅れた!」
「同じく遅れた!」
勢いよく部室のドアが開いて、円堂と美波が入ってきた。噂をすればなんとやら、だ。
どこかで着替えて来たようで、既にユニフォームを着ている。
「あれ、何か話してた?」
「美波と風丸の馴れ初め聞いてた」
「へー、懐かしいね。初めて会った頃はあたしの方が身長高かったなあ」
「よく泣いてたよな」
「円堂っ!」
「へえ、ちょっとそれ詳しく」
「聞かなくていい!」
声をあげれば逃げろ逃げろと1年生を連れてマックスや半田たちは出て行った。はあ……。
「おっし、あたしたちも行こう!」
振り向いて見せてくれたいつもと変わらない笑顔。それを見ていたら自然と笑みが零れた。
「ああ!」
いつか、この想いを伝えられたら。
→あとがき