荒波一期(仮)

□鬼道有人との再会
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少し歩いたところにあった公園に入る。辺りは暗くなりつつあり、あまり人はいない。



「俺と春奈は孤児だ」



ベンチに腰を下ろしながら言った。



「孤児って……」

「両親は春奈の誕生日までには帰ってくると言って出掛けていった。だが……事故に合い、帰ってくることはなかった」

「!」

「この雑誌を買ったのは、両親が俺に残した……俺がサッカーをやるきっかけになったサッカー雑誌の特集が組まれていたからだ。

両親を失ってから、俺と春奈は孤児園で生活していた。だが暫くして俺は鬼道家に、春奈は音無家に引き取られた」

「……」

「鬼道家の跡継ぎという身で、連絡を取ることも許されなかった」

「……」

「フットボールフロンティアに優勝し続けること、それが春奈を引き取る条件だ。それで俺は……」

「……ごめん」

「なんでお前が謝るんだ」

「嫌なこと聞いちゃったよね。無理して話さなくてもよかったのに」

「お前に話そうと思ったのは俺だ。気に病むことはない」

「うん……」



返事はするが、俯いたままだ。



「お前……泣いてるのか?」

「泣いてない!」



目元を擦っている腕を引き剥がすと、目を赤くした情けない顔があった。



「バカかお前は……」

「だって……」



ああ、コイツは、なんでこんなにもバカで、

お人好しなのだろうか。



「とりあえずその情けない顔をなんとかしろ」

「鬼道も春ちゃんもそんなことがあったのに……あたしは……」

「聞いているのか」

「……はあ」

「おい」

「……鬼道は凄いね」

「何だいきなり」

「辛いこととちゃんと向き合って乗り越えてるし、サッカー強いし」

「本音は後者じゃないのか?」

「どっちもだってば!」

「冗談だ」

「鬼道も冗談なんて言うんだね」

「俺をなんだと思っているんだ」

「あ、鬼道みたいに上手くなるのってどう練習すればいいの?」

「お前な……」



変わり身が早すぎるだろう。さっきまでの顔はどこへやら、輝くような笑顔に変わっていた。

やはりコイツはバカだ。






「このフォーメーションの場合ここがこうなると……」

「ゴール前ががら空きになる!」

「ああ。これだとどうすればいい?」

「……ボールを奪ったあと短いパスで上がる?」

「それだとこのディフェンダーに阻まれるぞ。この状態はカウンターに弱い。だからここはロングパスだ」

「なるほど……」



……俺は何をやっているのだろうか。気づけばボードを使い、作戦講座をしていた。時計を見れば7時を過ぎている。



「時間は大丈夫なのか?」

「え、あ!門限過ぎてる!どうしよう……」

「そこまで俺は面倒は見んぞ」

「うう…」



頭をかかえながら言い訳を考え始める。そんなことをしている暇があったら早く帰ればいいものを。



「そうだね!帰るよ!」

「やっとか」

「なんか引き留めてごめん!今度何かするから!」

「何かとは……」

「サッカー!」

「予想通り過ぎる答えだな」

「あはは……じゃあ何か奢るよ!……今日はありがとね、鬼道!」



今日、俺が見たコイツの笑顔の中でも一番の笑顔。自然と俺の口角も上がった。



「またね!鬼道!」

「ああ。またな、……美波」

「へあ!?ちょ、鬼道!?」



驚きの声が聞こえたが、気にせず背を向けて歩き出す。

佐久間があいつを……美波を好きになった理由が、少しだけ分かった気がした。






(美波!遅いじゃないの!何時だと思ってるの!)
(ごめんなさい!えと、帝国学園に通ってる頭いい友達に勉強教えて貰ってた!)
(あら、そうなの。珍しいわね)
(なあ、帝国の友達って佐久間か?)
(鬼道だよ)
(え!き、き、鬼道!?)
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