荒波一期(仮)

□豪炎寺修也との出会い
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「あ、おっはよー!豪炎寺!」



教室に入ったとたん、美波に声をかけられた。昨日の今日だ。話しかけてはこないだろうと思っていたが、当てが外れた。



「……おはよう」



返さないのもおかしいので、一応そう返すと、美波は勢いよく頭を下げた。



「昨日はごめんなさい!」

「は……?」

「豪炎寺とは会って初日で何も知らないくせに、勝手に自分の意見とか言ってごめん!」

「いや」

「じゃあ!」

「おい……」



止めるのも聞かずに教室を飛び出していった。台風みたいなやつだ。

……確か隣のクラスだったな。もうすぐチャイムも鳴る。なのに、わざわざ謝りに来たのか。律儀なやつだ。




俺が転入して数日たった。

毎日飽きもせずに一方的に話しかけてくる美波曰く、サッカー部は毎日部への勧誘や練習をしているらしい。

そして、



「豪炎寺!今日の給食はカレーなんだって!」

「豪炎寺!今日の体育の授業ハンドボールだって!いつかサッカーやりたいね!」

「豪炎寺って数学得意?」

「豪炎寺ー!あのね!」



……気のせいだとは思いたいが、何故か懐かれたような気がする。

そして円堂に凄い目で睨まれているような気がする。あと幼馴染だとか言うやつに、



「美波をたぶらかさないでくれないか」



と言われた。……一体いつ俺がたぶらかしたのだというのだろうか。とんだとばっちりを受けたものだ。

だが不思議と嫌な気分にはならなかった。


そして、練習試合当日。



「ね、豪炎寺!帝国との練習試合見に来ない?」



放課後、わざわざやってきた美波にそう言われた。



「……断る」

「何で?」

「興味がない」

「そっか」

「それに、俺が見に行ったところでどうにもならないだろ」

「まぁ、ぶっちゃけそうなんだけどね」

「……」

「あたし達、今日の練習試合まで頑張って練習してきたんだ。だからその成果を見て欲しいなって。

あっ、もちろん無理は言わないよ。気が向いたらでいいからさ」

「……気が向いたら行く」

「やった!」


「美波!早く!」


「じゃあ行ってくるね!」



走り去る背中を見送った後、窓からグラウンドを見下ろした。

グラウンドは、今日のために整備されている。



「……」






俺は、木にもたれかかるようにして、グラウンドを見ていた。

グラウンドでは、今まさに帝国との練習試合が始まろうとしている。

結局、流されるように見に来てしまった。……正直、何故自分がここに居るのか、自分でも分からない。

理由を考えるたびに美波の顔が頭に浮かぶ。その顔が夕香と重なる。

美波が何故ここまで俺に関わろうとするのかも、分からなかった。

その時、ホイッスルが鳴る音が聞こえた。目を向ければ、飛び込んできたのは0ー10という文字。

いつの間に試合は始まっていたのだろう。既に雷門は立っているのがやっとの状態になっている。



「(帝国の狙いは俺だ……)」



弱小サッカー部にあの帝国学園が練習試合を申し込む理由なんて、それくらいしか考えつかない。

去年の俺は、1年ながら木戸川清修でエースをしていた。だたら今の俺の実力を測るつもりなんだろう。

サッカーは、やめたというのに。



「(帝国は……)」



俺が出てくるまで、暴力的なプレーを続ける気だろう。

けれど、俺は出るつもりはない。……このまま続けば、円堂たちはどうなるだろうか。

そうこうしているうちにハーフタイムが終わり、後半が始まろうとしている。雷門は疲労困憊なのに対し、帝国は余裕綽々だ。

それを眺めていた時、フィールドに立っているある選手を見て、俺は驚いた。美波がいた。

公式試合ではないから、確かに女子でも出られる。だが、帝国相手に無謀すぎる……!

美波は俺が見に来ていることには気づいていたようで、こちらを見ていた。

何かを訴えかけているように見えたが、生憎何を言いたかったのかはわからなかった。


後半が始まった。開始早々ボールを奪われ、また暴力的なプレーが始まる。そんな中、



「雷門を……ナメるなあッ!」



美波がスライディングでボールを奪った。完全に油断していた帝国の一瞬の隙を突いて、パスも出さずに上がって行く。

振り上げた足が、青く光る。そのまま美波は、シュートを放った。



「(あれは……)」



まだ未完成だが、確かに必殺技だった。しかし帝国のキーパーは慌てずに、セーブしてみせる。



「くっそー!」



悔しげに自陣へ戻る美波に、円堂たちが賞賛の声をかける。明らかに雰囲気がよくなった。

反面、帝国イレブンは信じられないと言わんばかりに、美波を凝視していた。

あの帝国相手にあそこまでのプレイを見せた。素直に凄いと思う。……だが、今までの余裕そうな笑みは一変していた。

特にフォワードの11番は、忌々しげに美波を睨み付けている。

案の定、試合が再び動き出したかと思えば、容赦なく美波へボールが叩き込まれた。

点差もどんどん開いていく。

それでも円堂も美波も、諦めようとしない。それどころか、



「まだまだ、終わってねーぞ!」

「そうだ……まだ試合は終わっていない!」



こんなに点差が開いているのに、まだ勝つことを信じている。

俺は……、



「……」



グラウンドから逃げ出したやつが脱ぎ捨てたユニフォームが、俺の前に落ちる。

エースナンバーの、背番号10

かつて、背負っていた番号だ。



「夕香……今回だけお兄ちゃんを、許してはくれないか?」



俺はユニフォームに手を伸ばした。

あいつらとサッカーをしてみたいと、そう思ってしまったから。



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