受験生!
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※高3設定
正面。ゴーグルに透けて見える赤い瞳を鋭く光らせているゴーグルドレッドマン。
背後。俺のベッドに寝転がって漫画や雑誌を読み漁るハゲ……モヒカン野郎。
万事休す!!
「バカな事を考えている暇があったら問題を解け」
「なんだよ鬼道。超能力?」
「表情で分かる」
「何それ」
「百面相をしていた」
「ブッ……ハハハハ!」
「笑ってんじゃねえよ不動!」
思わず怒鳴るとスパンと丸めた教科書で鬼道に叩かれた。まあ、勉強教えてくれって頼んだのは俺なんだけどな……。
鬼道有人に不動明王。
俺が通う帝国学園が誇るサッカープレイヤーで、天才司令塔コンビだ。
帝国のサッカー部というとというと、佐久間とかも有名だ。3人とも中学生の時に世界大会での優勝の経験がある。
その時は鬼道は帝国に在籍していなかった訳だが、そこらへんは割愛。
そんな天才2人と通行人E程度の平凡な俺は、なんの因果かは分からないが、親しい間柄だった。
……縁があったんだろう、多分。佐久間?たまに話すな。源田?あいつはオカンだな。うん。
「つーか不動お前さっきっから人の雑誌やら漫画やら漁りやがって!」
「ふーん」
チラ、とこちらを一瞥した不動は、雑誌に再び目を落としながら口を開いた。
「問3は二行目の符号、問8は最初の計算、問12は公式が間違ってる。符号とか公式間違えるとかアホかよ」
「……マジ?」
「ああ。不動が言っていることは正しいぞ」
「天才かよ」
「そりゃドーモ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた不動は色気があった。こいつ将来女引っかけまくるヒモになりそう。イケメンは得だな。モヒカンの癖に。
そんな事を考えていたら、枕を顔面に投げつけられた。だからそれ俺の。おい鬼道、そっぽ向いてても笑ってんのバレバレだかんな。
「あーあ、お前らって卒業したら海外だっけ?」
「ああ。いくつかスカウトを受けているから、吟味するつもりだ」
「ま、俺は鬼道クンとは違ってプロには行かねーけど」
「え、何で?」
「誰が言うかよ」
「このツンデレ」
「死ね」
「酷い。鬼道〜、不動が苛める〜」
「早く課題をこなせ」
「イエス、サー!」
笑ってはいるものの、鬼道の口元はひきつっていた。やだ怖い。
2時間経った。今日のノルマもほとんど終わって一息つく。全く、鬼道様々だ。
……もうすぐこの生活も終わる。不動とバカ騒ぎして、鬼道に怒られて、そんで佐久間に噛みつかれて、源田が呆れてたり。
今だってこんなに近くにいる2人も、数ヶ月後には手に届かないくらい遠くへ行ってしまうのだろう。
「行っちまうんだな」
ぽつりと零れた言葉に、不動が視線をこちらに向けた。
「なんだよ。いっちょまえに寂しがってんのかよみょうじクンよ」
「そうだよ」
即答すれば、不動は黙ってしまった。一拍置いて、今度は鬼道が口を開く。
「別にずっと海外にいる訳ではないし、そんなに落ち込む必要もないだろう」
「いや……もうこうしてわいわいすることもないのかと思うと」
なんか、ナーバス状態だ。
「……お前、そういう奴だったか?」
「うるせーよシスコン!」
「なっ、春奈を侮辱するな!」
「してねっつの!」
「ぶはっ」
「笑うな!」
「ってえ!引っ張んなバカ!」
「ゴーグル取んぞおら!」
「やめろ!」
「……あらやだ美形」
「きめぇ」
「気色悪いぞ」
「この野郎!」
「ぐえっ」
「やりやがったなアホ!」
一頻りじゃれまくって、笑いまくった。
「まー、ほら、元気出せよ」
「不動が壊れた」
「珍しく優しくしてやったってのにそれか」
「ありがとう不動明王様」
「それでいいんだよ」
「それでいいのか……」
「プロに入って有名なったら、サイン書いてユニフォーム送ってやるよ」
「……鬼道」
「ああ。いい精神科を紹介しよう」
「おい待て」
「不動のデレとか……おえっ」
「てめっ」
「ぎゃっ!おま、自分の脚力自覚しろっ……」
「それにしても、どういう風の吹き回しだ?」
「まあまあ鬼道クン。このヘタレの為に一肌脱いでやろうぜ」
ニヤニヤ笑いをしながら、不動は鬼道に雑誌を見せる。待て、あれ俺が古本屋で買ったイナズマジャパンの特集雑誌じゃないか?
そんでもって開いてあるページには付箋が貼ってあって……、……あ。
「不動てっめえええ!」
「ぶっははは!!」
「俺と不動のページだな。この付箋は……」
「あああああ見んな!!くっそこんにゃろう!!」
「ファンならファンですーって言えばいいのによォ」
「笑うなちくしょう!あーそうですよファンですよ!仲良くなれて影でテンション上がってましたとも!」
「意外だな」
「やめろ鬼道そんな目で見んな」
「普通に嬉しいぞ」
「俺は恥ずかしい……」
「ほらよ、まだあるぜ」
「ほう……」
「勝手に出してんじゃねーーっ!!」
「……ま、俺も結構楽しかったけどな」
「デレた」
「は?」
「痛い痛い痛い!つーか過去形やめろ。まだまだ終わってねーだろ!」
「……円堂か」
「ん?」
「いや、何でもない」
「とにかく課題終わらせろ。でもってさっさとセンターで決めて、卒業までバカ騒ぎしようぜ」
「不動がそんなことを言うのは珍しいな」
「いいじゃねーかたまには。あ、鬼道の奢りな」
「ふざけるな」
「冗談だっつの」
「……あのさ、」
「何だ」
「何だよ」
「俺、お前らのことめっちゃ好きだわ」
フッと顔を見合わせて笑った鬼道と不動に、思い切り頬をつねられた。ちくしょう何で。
***
W司令塔の日2015記念(遅刻)で書いた話。
無駄に長い上、今読むと不動のキャラが迷子になってるような。最後のは照れ隠し。