受験生!
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待ちに待った、とはとてもじゃないが言えない冬休み。何故なら、受験が目前まで迫っているからだ。
切羽詰まっているのはあたしも例外ではないが、それ以上にヤバいやつの為に、泊まり込みで教えることになった。
両親は旅行らしく、予め合鍵を渡されている為、難なく入る。が、どうしてか部屋が暗い。
「綱海ー……」
前に来た時の記憶を掘り起こして部屋に突撃すれば、そこはもぬけの殻だった。
机の上には汚い字で「探さないでくれ」と書かれていて、割れた貯金箱の破片らしきものが床に落ちていた。
「……」
これはどういうことだ。つまりアイツは、勉強から逃げ出した?
「っ……綱海ィィイイイ!!!」
あたしの絶叫は、綱海の家を中心に半径20m内まで響いた。
…あんの野郎。見つけ出したらあの揉み上げ鋏で切り取ってやろうか。
***
「見つけたぞこのアホォ……」
「げっ、何で分かったんだよ…!」
「いかにも時間確認しましたと言わんばかりに机の上に広げてあった、フェリーと福岡からの新幹線の時刻表!
それに加えて日本代表だったチームメートの住所の書かれたハガキときたら、大体は分かるわ!そこに正座しろ!」
「はい!」
in雷門中。綱海の逃げた先は東京で、元チームメイトたちとサッカーをしていたのだ。バカか。
「そもそもあたしに先生頼んだのは綱海だろーが!」
「いや、その…スポーツ推薦あるし、大丈夫かなーってさー…」
「いくら世界一になっても、通知表にアヒルが行進してて、内申がヤバいから勉強しろっつってんだ!」
「…すみません」
縮こまる綱海の後方では、バンダナの子が水色の子とサ○ヤ人みたいな子にアヒルについて聞いていた。
「…2っていう意味だよ」
「えっ、それヤバくないか?」
「お前も同じようなものだぞ、円堂」
「そ、それ…は…」
綱海と同類だった。大丈夫、まだ中2だし中3で頑張ればなんとかなる。沖縄と東京じゃ換算の仕方違うだろうけど。
「帰るぞ」
「ま、待ってくれよ!まだ来たばっかりで、」
「問答無用」
「……」
ったく、世話が焼ける。世話を焼く方も焼く方だけど。
「尻に敷かれてるでヤンスね…」
「付き合ってるんスかね…」
「ンなわけあるかァ!」
「「ひぃっ」」
しまった、思わず怒鳴り付けてしまった。大海原でもよく言われるから、癖が出たみたいだ。
「おい綱海」
「……うーん」
「綱海」
「………」
「おい綱海、何考え込んでんだ」
「いや、どうやったらみょうじは俺に惚れてくれるかなーって」
「は?」
えー!!!とかという声の大合唱。それは私が一番思った。何言ってんの。
「あ、そうだ!俺がサッカーやってるとこ見てろよ!惚れさせてやる!」
「…綱海」
「おう!」
「現実逃避はやめて」
「……」
「…先は長そうだな」
「おー…」
ゴーグルドレッドマントと奇抜な格好をしている少年が、綱海に肩ポンをする。………はあ。
「良い返事はあんたの受験が終わったらしてあげるから」
「えっ」
「だから今は勉強ね!」
「わ、分かった!」
嬉しそうな綱海を見て、あたしも自然と笑っていた。小さく拍手をしているギャラリーは見ないフリ。
…あんなこと言っちゃったんだから、あたしももっと頑張らないとね。
「付き合ってやるよ、最後まで」
***
起承転は考えてたけど、結がなかなか思い付かなかった。