受験生!
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※カルマ君の進学先が出る前に書いたものです。
ぐしゃり、という音を立てながら、私の手の中で模試の結果の紙が潰れた。
自信はかなりあった。特に得意な数学は、80点くらいはいってるんじゃないかと思ってた。
なのに、
「……最悪だ」
数学の点数は60点。他のも50点前後。こんな筈じゃなかったのに。今期最後の模試だったのに。
「くそっ……」
思わず丸めてポイッと後ろへ放り投げる。漫画でこんなシーンを見たことがあるけど、その時は不当放棄していいのかと思ったものだ。
現に私がやってる訳だけれども。やっぱりマズイよな、と思って踵を返して拾おうと思ったら、
「数学60点に……うっわ、英語30点とか赤点ギリギリじゃん」
酷い点数を勝手に音読されていた。特徴的な綺麗な赤髪が、風に揺れる。
「……カルマ」
「よー、なまえ。久しぶり」
小学校時代のクラスメート、赤羽業がいた。
「久しぶり。……勝手に人の模試の結果読まないでよ」
「捨てたのはなまえじゃん。えーと、国語は55点……」
「っ、返してよ!」
「やーだね」
手を伸ばしても、身長の高いカルマが腕を上げてしまえば、ジャンプしても届かない。
なかなか返してくれなくて、だんだんと苛立ちが募ってきた。
小学校時代、6年間ずっと同じクラスだったから、カルマが頭がいいことは知っている。
そして、偏差値66の私立、椚ヶ丘中学校に入ったことも。
大して勉強をしなくてもいい点数を取れる程、要領のいいカルマ。
……悔しい。
「(羨ましい……)」
本当は私だって椚ヶ丘に通いたかった。カルマと一緒にいたかったのに。
頭のいい彼のことだから、きっと高校受験も余裕なんだろう。そういえば、椚ヶ丘には高等部があるんだっけ?
「返して!」
「!」
そう怒鳴り付ければ、私を避け続けていたカルマの動きが止まった。その隙に奪い返す。
「カルマには分からないよ。私がどれだけ頑張っても、カルマはどんどん先に行っちゃって……。……いいよね、楽でさ」
「……はあ?」
カルマの纏う雰囲気が、変わった。
笑みが消えて、目付きが鋭くなる。突き刺すような殺気が、私を襲う。
ああ、どうやら私は地雷を踏んでしまったらしい。
それでも、怖いのと同時に少しだけ怖くないという気持ちがあるのは、よく彼にイタズラされていて慣れていたからだろうか。
次の瞬間、ダンッと私は塀に叩きつけられた。背中がじんじんと痛んで、顔を歪める。あれ、ここまでやられたこととかあったっけ。
体勢を立て直そうすれば、今度は胸ぐらを掴まれた。苦しい。思うように、息が出来ない。
「くっ……」
「……」
「かる、ま」
「……あのさあ、何勘違いしてんの」
「な、にを……」
「俺だって、挫折くらいするよ。油断して、順位落ちたことあるし」
何が落ちたことがあるだ。それでも、凡人の私からしたら十分いい順位だろうに。
「楽?ンな訳ないじゃん。知らないのは当然だけど、うちにはエンドのE組って言われてるクラスがあって、成績とか素行が悪いとそこ送りにされるんだよね。
毎日山の上の旧校舎まで通わされて、本校舎の奴らからはあらゆる面でカス扱い。ま、俺は素行が悪かっただけで成績はいいし、痛くも痒くもなかったけど」
「え……」
知らなかった。カルマが、椚ヶ丘にそんなシステムがあっただなんて。
そういえば、一時期カルマは学校に行ってなかったと聞く。あれは、停学になっていたのか。
「ご、め……」
「え?なまえが謝る必要なんてなくね?」
「……は」
パッと私から手を離したかと思うと、カルマはひらひらと片手を振った。……何その変わり様は。
「確かに俺らはエンドだったけど、本校舎に戻る基準の学年順位50位以内は2学期期末でクラス全員クリアしてるし?」
「は、あ!?」
ちょっと、どういう意味か分からないんですけど。
「訳あって本校舎に戻らないっていうか、皆戻りたくないっていうか。俺もだけど。まあ、楽しんでるよ」
「何、それ……。……私の恐怖返せこの野郎!」
「あはは!そんなに怖かったんだ」
「……当たり前でしょうが」
仮にも、仮にも、だ。好きな男子にあんなことされたら、怖くなるのも仕方ないと思う。
イタズラが好きなカルマだけど、本当にさっきは怖かった。これで悪気がないんだから、尚更質が悪い。
「久しぶりに仕掛けてみたけど大成功」
「この野郎……」
「うんまあ、俺なりに頑張ってることあるんだよね」
「……」
「あ、そうそう。俺なまえと同じトコ受けるつもりだから」
「え、う、嘘……」
「ホント。E組は内部進学出来ないから。……理事長とは和解したけど、名目上無理だろーし」
後半は聞き取れなかったけど、つまり、高校はカルマと一緒ってこと?
「その成績じゃ無理そうだけど、」
「ぐっ……」
「俺が教えてやるからさ」
絶対に、連れてってみせるから。
その言葉に二重の意味があることを、私が知る日が来るのか否か。
***
カルマ君が好きだけど、天才なカルマ君に対して劣等感を抱いている夢主。
最後のは(高校に)連れてくからと、(未来に)連れてくから、的な。
地球は俺が破壊させないぜ、的なの。一応茅野編に突入する前。