受験生!
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誰もいない放課後の教室で、私は机に置かれた1枚の紙と向き合っていた。
「うーん……」
決まらない。何が、というと、進路がだ。
あれやこれやと過ごしているうちに、あっという間に3年生になってしまった。
入学式に校外学習。修学旅行とか、体育祭とか、昨日のことのように思い出せるのに。
出来ることならもう一度3年生をやり直したい…と無理なことを考えてみる。
てかもう、3年の2学期半ばを過ぎた時点で志望校決まってないとか終わってる。
この目の前にある記入欄が白紙の紙を、丸めてゴミ箱に入れられたらどれ程楽だろう。
「……吹雪くんは」
吹雪くんは、どこの高校に進学するんだろう。物凄く、気になる。風の噂では、東京の方のサッカー部が強い所に進学するらしい。
日本代表として世界大会に出場した吹雪くん。その仲間たちもあっちにいるんだし、彼らとまたサッカーをする為だろうか。
いや、逆にライバルとして…だと、北海道の高校でもいいのか。全国大会に出られさえすればいいんだから。
それを知ったところで、私は何をするのかというと、何もしないのだけれど。
高嶺の花…とは少し違うか。とにかく、白恋のプリンスと呼ばれる彼がどこに行くのか、気になっただけ。
クラスメートなのに、ほとんど話したことないし。話しづらいというか、何というか。
「あーもー……」
ため息を吐きながら机に突っ伏す。…帰っちゃおうかな。
散々頼み込んで先伸ばしにしてもらって今日が期限だけど、考え付かないものは考え付かないのだ。
そもそも、志望校は考え付くというより、自分に合ったところを選ぶんだけど。
どうしよう、かな。
突っ伏したまま悩んでいれば、がらりと教室のドアが開く音がした。
誰か忘れ物を取りに来たのかな。耳をすましてみれば、机の中を漁る音が聞こえる。
ぼーっとしていたら、とんとんと肩を叩かれた。顔を上げて振り向いてみると、そこには、
ふにっ
「何してるの?みょうじさん」
吹雪くんが立っていた。肩を叩いたのは吹雪くんらしく、その白い手は私の頬をつついている。
柔らかいね、と言われたけれど、多分吹雪くんの方が柔らかいです。
「進路調査表?」
「うん」
「あれ、でも期限はかなり前だったような……」
「どうしても決まらなくて、先伸ばしにしてもらったんだ」
「へえ……」
あれ?案外話せてるぞ?吹雪くんのふわふわオーラから出る、マイナスイオンのおかげかな?なんて。
「ちょっといい?」
「どうぞ」
調査表を手に取った吹雪くんは、シャーペンを取り出すと、何やら書き出した。
覗き込もうとしても、体の影になってよく見えない。同年代の男子と比べたら確かに小柄だけど、やっぱり男の子なんだ。
「はい」
「……どうも?」
そう言って差し出された調査表は、第一希望の欄はどこかの高校名が書いてあって、第二、第三希望の欄には斜線が引いてある。
これは…どういうことかな?めちゃくちゃ偏差値低いとこで、お前にはここがお似合いだとか…ないか。吹雪くんなんだし。
「えっと、」
「ここね、僕が受ける高校なんだ」
「え」
私の方に向き直った吹雪くんは、キラースマイルを浮かべてとんでもないことを言い放った。
「僕と一緒に、東京に来て欲しい」
それなんてプロポーズですか?
***
進学先気にしてるけど、主にとって吹雪はただのクラスメート。