受験生!

□04
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誰もいない放課後の教室で、私は机に置かれた1枚の紙と向き合っていた。



「うーん……」



決まらない。何が、というと、進路がだ。

あれやこれやと過ごしているうちに、あっという間に3年生になってしまった。

入学式に校外学習。修学旅行とか、体育祭とか、昨日のことのように思い出せるのに。

出来ることならもう一度3年生をやり直したい…と無理なことを考えてみる。

てかもう、3年の2学期半ばを過ぎた時点で志望校決まってないとか終わってる。

この目の前にある記入欄が白紙の紙を、丸めてゴミ箱に入れられたらどれ程楽だろう。



「……吹雪くんは」



吹雪くんは、どこの高校に進学するんだろう。物凄く、気になる。風の噂では、東京の方のサッカー部が強い所に進学するらしい。

日本代表として世界大会に出場した吹雪くん。その仲間たちもあっちにいるんだし、彼らとまたサッカーをする為だろうか。

いや、逆にライバルとして…だと、北海道の高校でもいいのか。全国大会に出られさえすればいいんだから。

それを知ったところで、私は何をするのかというと、何もしないのだけれど。

高嶺の花…とは少し違うか。とにかく、白恋のプリンスと呼ばれる彼がどこに行くのか、気になっただけ。

クラスメートなのに、ほとんど話したことないし。話しづらいというか、何というか。



「あーもー……」



ため息を吐きながら机に突っ伏す。…帰っちゃおうかな。

散々頼み込んで先伸ばしにしてもらって今日が期限だけど、考え付かないものは考え付かないのだ。

そもそも、志望校は考え付くというより、自分に合ったところを選ぶんだけど。

どうしよう、かな。

突っ伏したまま悩んでいれば、がらりと教室のドアが開く音がした。

誰か忘れ物を取りに来たのかな。耳をすましてみれば、机の中を漁る音が聞こえる。

ぼーっとしていたら、とんとんと肩を叩かれた。顔を上げて振り向いてみると、そこには、

ふにっ



「何してるの?みょうじさん」



吹雪くんが立っていた。肩を叩いたのは吹雪くんらしく、その白い手は私の頬をつついている。

柔らかいね、と言われたけれど、多分吹雪くんの方が柔らかいです。



「進路調査表?」

「うん」

「あれ、でも期限はかなり前だったような……」

「どうしても決まらなくて、先伸ばしにしてもらったんだ」

「へえ……」



あれ?案外話せてるぞ?吹雪くんのふわふわオーラから出る、マイナスイオンのおかげかな?なんて。



「ちょっといい?」

「どうぞ」



調査表を手に取った吹雪くんは、シャーペンを取り出すと、何やら書き出した。

覗き込もうとしても、体の影になってよく見えない。同年代の男子と比べたら確かに小柄だけど、やっぱり男の子なんだ。



「はい」

「……どうも?」



そう言って差し出された調査表は、第一希望の欄はどこかの高校名が書いてあって、第二、第三希望の欄には斜線が引いてある。

これは…どういうことかな?めちゃくちゃ偏差値低いとこで、お前にはここがお似合いだとか…ないか。吹雪くんなんだし。



「えっと、」

「ここね、僕が受ける高校なんだ」

「え」



私の方に向き直った吹雪くんは、キラースマイルを浮かべてとんでもないことを言い放った。



「僕と一緒に、東京に来て欲しい」



それなんてプロポーズですか?







***
進学先気にしてるけど、主にとって吹雪はただのクラスメート。

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