受験生!
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体をうんっと伸ばして、体を仰け反らせる。長いこと机に座っていたから、すっかり縮こまってしまった。
秀徳高校の図書館にて、受験を間近に控えた私は、志望校に受かるべく必死で勉強していた。
気づいたら外は真っ暗だ。まあ冬だから、日が暮れるのも早いんだけれども。
一緒に勉強していた大坪、宮地、木村も帰ってしまったし、少し粘りすぎたかな。
時計を見れば8時を過ぎていて、慌てて荷物を纏めて立ち上がった。よかった、先生がまだ仕事をしていて。
校舎の外へ出ると、冷たい風が吹き付けた。はあ、と息を吐けば白くなって出ていく。
小さい頃は何でこうなるのか分からなくて、何度もやってたっけ。
もうそれも10年近く前の話だ。高校受験だって昨日のことのように思い出せるのに、あっという間に高3になってしまった。
まずはセンター試験。緊張するけど、頑張らなくちゃ。来週なんだと意気込んで帰路につこうとすれば、聞き覚えのある声が私を呼び止めた。
「みょうじせーんぱいっ!」
「あ、高尾君」
やってきたのは私がマネージャーとして所属していた男子バスケ部の1年レギュラー、高尾君だった。
「勉強っすか?お疲れ様です!」
「高尾君こそ、この時間まで残ってたってことは自主練でしょ?お疲れ様」
「あー、やっぱウィンターカップの結果が悔しかったんすよねー」
「成る程……」
3年の私や大坪達にとって高校最後の大会だった、ウィンターカップ。
成績は3位となかなかのものだったけど、3位決定戦で当たった海常はエースの黄瀬君が怪我で欠場だった。
もし彼が欠場していなければ、3位になれたかどうか分からない。
それに、準決勝で洛山に負けてしまったから、誠凛との戦績は負け、引き分けと、リベンジ出来ていない。
是非とも次の世代に頑張って欲しいと思う。宮地の弟もいるし、来年度は木村の弟も加入するんだから。
大坪の妹は、マネージャーとして入部したいとかどうとか。
「リベンジってことで、打倒誠凛?」
「やーオレ的には誠凛なんですよ。もー、洛山怖いしーってやっべ、赤司のこと思い出したら鳥肌立ってきた!」
「あはは!すっごい迫力だったもんね、赤司君」
「ほんとヤバくて!怖すぎっていうか!」
「あの威圧感はベンチでも感じたよ」
「てゆーか、真ちゃんに言わせると「次は、黒子にも火神にも赤司にも負けん!」って。真ちゃん的には、両方なんですよね」
「そっか……。って、それ緑間君の真似?似てる!」
「マジっすか?宮地先輩……あ、弟の方の前でやるとうぜえって言われるし、真ちゃんも拗ねるんですよねー」
「あの2人なら確かにそういう反応しそうだね」
特に宮地君は。宮地兄も、しょっちゅう高尾君に「轢くぞ」とか「刺すぞ」とか言ってたし。
「じゃあ、他にもやっちゃいますね!」
「おっ」
おもむろにだて眼鏡を取り出した高尾君は(何で持ってるの?)、ちゃきっとずれを直す仕草をして、
「……オレのシュートは落ちん!」
と、言い放った。
「ぶっ、はははは!これはツボる!」
「マジっすか!てかこんなにウケたの初めてなんですけど!」
「ちょ、私がツボ浅いみたいに言わないでよ!高尾君のがツボ凄い浅いじゃん!」
「えー。あ、そんなことより、緊張ほぐれましたか?」
「えっ……」
そういえば、さっきまで私は試験を間近に控えていることから、緊張していた。
でも今は、その緊張が消えてる。もしかして、高尾君は気を使ってくれたの……?
「オレ、応援してますんで!あ、そろそろ真ちゃんがキレるんで、行きますね!」
「うん。ありがとう」
「じゃ!」
そう言って走り出した高尾君は、「そうだ!」と立ち止まって振り向いた。
かと思うと、ぽーんと何かが飛んできて、私の手の中に収まった。
「飴?」
「先輩ファイトー!オレ、絶対追いかけますんで!」
「えっ、ちょっと、高尾君っ!?」
私が呼び止めるのも聞かずに、ニッと笑った高尾君は踵を返すと走っていってしまった。
半年くらい前のことだけど、高尾君はハイスペックだと聞いたことがある。
鷹の目を使ってよく見ているのか、周りへの気配りは上手いし、人を意思を汲むのが得意だ。
そんな彼に、思いを寄せる女の子も多いらしい。確かに、顔立ちは整ってるし、性格もいいし……。
私は今まで、高尾君をそういう対象として見ていなかった。けど、
「追いかけるって……」
……ああ、期待してしまいそうだ。
高尾君の為にも、頑張って絶対に受からなくちゃ。
口の中に放り込んだ飴は、いつも以上に甘ったるく感じた。
***
初めて書いた黒バス短編。まさか高尾になるとはなあ。