荒波一期(仮)

□アフロディとの邂逅
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「帝国の初戦?」

『ああ、よかったら見に来て欲しいんだ』

「丁度あたしも見に行きたいって思ってたんだ!行く!見に行く!」

『そうか!絶対に勝つから、応援してくれよ』

「おう!」



というやり取りをさっ君としたのが、つい昨日の夜の事だ。

当然サッカー部は毎日練習があるんだけど、守兄ぃに頼みに頼み込んで練習を休ませてもらうことにした。

秋たちにも連絡しておいたら、春ちゃんに試合結果を教えて欲しいと返事がきて、了承。

まあ帝国にはお兄ちゃんの鬼道がいるから、気になるよね。

そして今日、つまりは翌日で帝国の初戦当日。



「うわー、試合始まっちゃうよ!」



あたしはフロンティアスタジアム行きのバスの中で、携帯の時計表示とにらめっこしていた。

出かける前にやたらと守兄が心配して、忘れ物はないかとか、交通費持ったかとか、何度も確認した。だから出る時間がズレてしまった。

試合ギリギリの時間のバスに飛び乗ったはいいものの、道路が混んでてやきもきしてる。なんとか間に合いそう、だけど。


――次はフロンティアスタジアム前



「あ、降ります降ります!」



降車ボタン連打。意味ないけど、気持ち的な問題だ。

運賃を入れてありがとうございましたと軽く運転手さんに会釈して、バスから飛び降りる。

そのままバス停からフロンティアスタジアムに、全力疾走。



「……うん、間に合いそうだ」



スタジアム内に入って観客席に上がる階段を探してたら、前方から綺麗な男の子が歩いてきた。

長い髪は絹みたいに柔らかそうだし、肌も陶器のように滑らかで、一瞬女の子かと思ったけど、多分男の子だろう。

腕や足の筋肉は引き締まっててスラッとしてる。ユニフォームっぽいの着てるし、多分、噂の世宇子中の選手だ。

まあ今はそれどころじゃない。帝国の応援に来たんだし。鬼道は怪我の大事を取って今日は出ないらしいけど、大丈夫かな。



「ねえ」

「へ?」



すれ違う時、何故か声をかけられて、がっしりと腕を掴まれた。怖くなって振り払おうとしても信じられないくらい力が強くて、振り払えない。

腕がちょっと白くなってきた、ような。あたしを掴む腕には、キャプテンマーク。もしかして、世宇子中のキャプテン……?



「あの、試合は?」

「僕のこと、知ってるの?」

「いや、ユニフォーム着てるから……」

「ああ、なるほどね」



クスクスと笑っている男彼に背中が寒くなる。何、この人。



「雷門中の円堂美波さんだよね?見たよ、地区予選の決勝戦。凄いね、女の子なのに」

「……はあ、どうも」



褒められてる……んだと思う。けど、なんか嘲笑われてるようにも受け取れる。得体が知れない。



「試合、見に来たの?」

「うん。帝国に友達がいるから」

「ふうん……そう。なら見ない方がいいよ」

「は……?」

「これは忠告だ。見たら後悔する。見なければよかったって」



なんだそれ。意味がわからなくて、聞き返そうとして……気づけばそこに彼はいなかった。

壁の時計を見ると、試合開始時間は過ぎている。


――さっ君たちが危ない。


直感的にそう思って、あたしは観客席へ繋がる階段を駆け上がった。



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