荒波一期(仮)

□バカと大バカについて
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フットボールフロンティア地区予選二回戦、雷門中対御影専農中との試合の前の話である。

練習を終え校門を出た杉森と下鶴に、木に背を預けて待ち構えていた鬼道が声をかけた。



「よお、サッカーサイボーグ。お前たちは雷門の偵察には行かないのか?」

「帝国の鬼道……」



挑発するかのような言葉に対し、下鶴が呟く。杉森は冷静に返した。



「時間の無駄だ。我々は既に雷門のデータに勝っている」



その言葉に、鬼道は鼻で笑った。それだけかとでも言うように。



「シミュレーションは完璧というわけか。だが所詮はデータの再現に過ぎないな。お前たちの持ってないデータを提供しよう」

「目的は何だ」



警戒混じりの訝しげな目を向けられ、鬼道は薄ら笑いを浮かべた。



「確実に雷門を潰して欲しいだけだ。とにかくヤツらは普通じゃない。ヤツらは……バカなんだ」

「バカ?」

「それがデータか?」



鬼道の口から飛び出した"バカ"という単語に、2人は少し拍子抜けたように言った。

何とも言えないと僅かに苦笑を浮かべた表情で、鬼道は言葉を続ける。



「ああ。実は俺も上手い説明が見つからない。自分の目で確かめることを勧める」



そう言って立ち去ろうと鬼道は踵を返したが、ふと思い出したと足を止めた。



「そうだ……。ゴールキーパーの円堂守、そして妹の円堂美波。ヤツらはとびっきりの大バカだ。

特に妹の方は……俺たち帝国に無謀にも突っ込んでくるような大バカだ」



鬼道の脳裏を過ったのは、雷門との練習試合。満身創痍になりながらも、ボールを奪い無理矢理特攻してきた姿。

口角を上げた鬼道を見て、分からないと下鶴が口を開いた。



「円堂美波は女だ。試合には出ないのならば、ヤツのデータは無意味だと思うが」

「普通ならそうだろうがアイツは別だ。ベンチからでもその影響力は大きい。

野生中との試合でも、アイツのアドバイスは最終的に勝利に繋がったのだからな」



言いたいことはそれだけだと、手を軽く振って鬼道はその場を立ち去った。



「バカと大バカか……」

「確かに、インプットされていないデータだ」




***


「……そのやり取りマジで?」

「ああ。確かに鬼道は大バカと言っていた」

「うわあ……」



稲妻町のとあるカフェにて、美波はテーブルに突っ伏した。

経緯としては、試合の日に大バカと言われ、それが鬼道からのデータと聞き気になったのが始まりだ。

美波が連絡を取り、実際に会って話すことになった。

サッカーの話題で盛り上がったあと本題に入り、事の次第を聞いたのである。



「明日の練習で問い詰めてやる」

「鬼道相手に問い詰めるなんてこと出来るのか?」

「……無理!」

「清々し過ぎる笑顔だな……」

「だって鬼道だし。あー、美味しい」



先程頼んだパフェを頬張り笑顔になった美波を見て、下鶴も頬を緩めた。

だが凄まじい視線もとい殺気が突き刺さり、表情を引き締める。窓越しに見えるのは、尾行してきた円堂や風丸の姿。



「(殺られる……)」



下鶴の頬を冷たい汗が流れる。というか何故美波はこの視線に気づかないのか。



「あ、もう5時じゃん。そろそろ帰らないとね」

「そうだな」



カフェを出て、空を見上げる。

やっと殺気から解放されるとホッと息を吐くが、いかんせんやられてばかりでは少しばかり癪である。

そうだと下鶴は先を行く美波を呼び止めると、耳元でまた会おうとだけ言い、その場を去った。

それは円堂や風丸からの角度から見ると、頬にキスをしているように見えるというわけである。


阿鼻叫喚状態になっている情景を想像して優越感に浸りつつ、下鶴は帰路につくのであった。






(鬼道ももう雷門イレブンだから、バカなんだよね!)
(……は?)




***
最後のは円堂妹と鬼道さんです。鬼道さん意味わかってない。
下鶴くんはお友達。

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