荒波一期(仮)

□木野秋の思い出
1ページ/2ページ

「あ」



放課後。みんなより早く来ちゃったから、部室の棚を整理してたら、一冊の薄いアルバムが落ちた。

そういえばサッカー部を作ったばかりの頃は、たまに撮ってたっけ。動きの癖とか、シュートのフォームとか。

今は音無さんがいるから、棚に仕舞っておいたんだと思うけど、すっかり忘れてた。

少しだけ埃を被っているから、乾いた雑巾で拭く。長いこと置きっぱなしだったから、少し黄ばんでる。



「それ、何でヤンスか?」

「アルバムっスね」

「栗松くんに壁山くん」



2人の後ろから少林寺くんと宍戸くんも出てくる。視線はアルバムに向いていた。



「これはね、去年のサッカー部のアルバムなの」

「サッカー部のですか?」

「うん。今は使ってないんだけどね」



表紙を捲ると、部室を掃除をして、綺麗になった部室の前で撮った写真が入っていた。

写っているのは私と円堂くんと美波ちゃんで、染岡くんと半田くんが入る前のものだった。



「懐かしいなあ……」




***


「えーーーっ!!?」

「なんだってーーーっ!!?」



職員室から響いてきた声に、秋は足を止めた。



「今の声……」



確かサッカー部に入ると言っていたクラスメイトの筈……と秋は首を傾げた。

何故覚えていたかというと、サッカーと聞き、どうしても気になってしまったからだった。だから、職員室まで来てしまった。

勢いよく職員室から飛び出してきた少年と一緒にいた少女に、秋は声をかけた。サッカー部に入るんじゃないのか、と。

そしてその質問の返答は、



「ないんだ……サッカー部がないんだよ!」

「えっ」

「こうしちゃいられない!」

「あ、ちょ、守兄!」



じれったそうに声を上げた少年――円堂守は、逸る気持ちを押さえられないとばかりに走って行ってしまった。

新入生のオリエンテーションでの部活紹介ではなかったものの、円堂の様子からして、サッカー部はあると思い込んでいた。けれど、ない。

面食らい立ち尽くす秋と、続いて出て来た美波の目が合った。



「あ、あのね、部室は一応あるみたいなんだ!」

「部室?」

「今は物置になっちゃってるみたいなんだけどね、君もサッカー部に入るつもりだったの?」

「う、うん。でも、ないんだよね?」

「だからこれから作るんだ!一緒に行こう!」



差し出された手と勢いに流されるままに、秋は少女――円堂美波と走り出した。

……本当は、迷っていた。一時はボールを見るのも嫌になっていたこともある。サッカーが、怖かった。

けれど、頷いてしまった。自分はやっぱりサッカーが好きなのだと、秋は思った。



「先に行かないでよー!」

「ごめんごめん!……と、えーっと……誰?」

「一応クラス同じなんだけどな……」

「守兄、覚えてないの?」

「いやー、あははっ」

「まだ入学したばかりだもんね。私、木野秋。よろしくね」

「俺は円堂守。こっちは妹の美波だ!」

「円堂美波です!よかったら名前で呼んで!よろしくね、秋!」

「うん!」

「もしかして木野もサッカー部に入りたいのか?よっしゃあ!」

「部員3人、だね!でもまずは掃除しないと!」

「よーし、やるぞーっ!」

『おーっ!』




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ