荒波一期(仮)
□木野秋の思い出
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「あ」
放課後。みんなより早く来ちゃったから、部室の棚を整理してたら、一冊の薄いアルバムが落ちた。
そういえばサッカー部を作ったばかりの頃は、たまに撮ってたっけ。動きの癖とか、シュートのフォームとか。
今は音無さんがいるから、棚に仕舞っておいたんだと思うけど、すっかり忘れてた。
少しだけ埃を被っているから、乾いた雑巾で拭く。長いこと置きっぱなしだったから、少し黄ばんでる。
「それ、何でヤンスか?」
「アルバムっスね」
「栗松くんに壁山くん」
2人の後ろから少林寺くんと宍戸くんも出てくる。視線はアルバムに向いていた。
「これはね、去年のサッカー部のアルバムなの」
「サッカー部のですか?」
「うん。今は使ってないんだけどね」
表紙を捲ると、部室を掃除をして、綺麗になった部室の前で撮った写真が入っていた。
写っているのは私と円堂くんと美波ちゃんで、染岡くんと半田くんが入る前のものだった。
「懐かしいなあ……」
***
「えーーーっ!!?」
「なんだってーーーっ!!?」
職員室から響いてきた声に、秋は足を止めた。
「今の声……」
確かサッカー部に入ると言っていたクラスメイトの筈……と秋は首を傾げた。
何故覚えていたかというと、サッカーと聞き、どうしても気になってしまったからだった。だから、職員室まで来てしまった。
勢いよく職員室から飛び出してきた少年と一緒にいた少女に、秋は声をかけた。サッカー部に入るんじゃないのか、と。
そしてその質問の返答は、
「ないんだ……サッカー部がないんだよ!」
「えっ」
「こうしちゃいられない!」
「あ、ちょ、守兄!」
じれったそうに声を上げた少年――円堂守は、逸る気持ちを押さえられないとばかりに走って行ってしまった。
新入生のオリエンテーションでの部活紹介ではなかったものの、円堂の様子からして、サッカー部はあると思い込んでいた。けれど、ない。
面食らい立ち尽くす秋と、続いて出て来た美波の目が合った。
「あ、あのね、部室は一応あるみたいなんだ!」
「部室?」
「今は物置になっちゃってるみたいなんだけどね、君もサッカー部に入るつもりだったの?」
「う、うん。でも、ないんだよね?」
「だからこれから作るんだ!一緒に行こう!」
差し出された手と勢いに流されるままに、秋は少女――円堂美波と走り出した。
……本当は、迷っていた。一時はボールを見るのも嫌になっていたこともある。サッカーが、怖かった。
けれど、頷いてしまった。自分はやっぱりサッカーが好きなのだと、秋は思った。
「先に行かないでよー!」
「ごめんごめん!……と、えーっと……誰?」
「一応クラス同じなんだけどな……」
「守兄、覚えてないの?」
「いやー、あははっ」
「まだ入学したばかりだもんね。私、木野秋。よろしくね」
「俺は円堂守。こっちは妹の美波だ!」
「円堂美波です!よかったら名前で呼んで!よろしくね、秋!」
「うん!」
「もしかして木野もサッカー部に入りたいのか?よっしゃあ!」
「部員3人、だね!でもまずは掃除しないと!」
「よーし、やるぞーっ!」
『おーっ!』
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